神話とか、古代史とか。

日本をはじめあちこちの神話や古代史、古代文化について、考えたこと、わかったこと、考えたけどわからないことなど。

久々の論文

 いずれ「はじめに」に追記する予定だが、まずは報告を。

 去年投稿した論文が、『比較民俗学会報』169号に載った。「ワカヒコ - タカヒコネ神話と昔話」というタイトルだ。

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 『古事記』『日本書紀』には、「アメワカヒコ」と「アヂスキタカヒコネ」という神々にまつわる物語がある。これはどうやらいくつかの昔話が合成され、いまの形になっているらしい。「二人兄弟」や「瓜子姫」、「三つのオレンジ」、「蛇王子」などの昔話と比較することで、その成り立ちを明らかにする――的な話。

釣手土器の話 2 - 棚畑土偶、但し書き

 前回、棚畑土偶(いわゆる「縄文のビーナス」)をとり上げた。この土偶については、少し補足することがある。実はこれ、完全に欠けたところのない状態で見つかったというわけではない。

 図1は、棚畑土偶が出土したときの写真である。たしかにほぼ完形ではあるが、右脚はかなり欠けている。例の文様(股間の5角形)の半分近くは、現代人が粘土で復元したものなのだ。

f:id:calbalacrab:20170205204029j:plain図1*1

 ともあれ、写真を見る限り、この文様がもともと左右対称の形をしていたことはまず間違いない。つまりこの復元は、充分な根拠にもとづいており、わからないところを想像で補ったものではないということだ。月見松土器の文様と比較する上で、支障はないと考えていい。

 特に博物館の目玉になるような出土品は、一見どこが欠けていたのかわからないような形で復元されていることが多い。遺跡の報告書などを見ないと復元箇所がわからないこともあるから、注意が必要だ。

 ちなみに棚畑遺跡の報告書は、こちら(↓)からダウンロードできる。
http://sitereports.nabunken.go.jp/ja/788

*1:茅野市教育委員会『棚畑』1990年 より。

釣手土器の話 1 - 文様を読んでみる

 「吊手土器の象徴性」(「はじめに」を参照)は簡単に言えば、縄文土器の文様の意味を解読しようという試みだ。解読と言っても、暗号や古代文字を読むわけではないから、実はそれほど難しくない。たとえばの話、月見松遺跡(長野県伊那市)から出た「顔面把手付土器」(図1)について考えてみよう。

f:id:calbalacrab:20170123014907j:plain図1 月見松出土*1

  この土器を上から見ると、顔面把手の反対側、縁のところに変わった模様がある(図2。赤線で囲んだ部分)。

f:id:calbalacrab:20170123111351j:plain図2*2

 つぶれたホームベースと言うか、一見ビキニパンツのような形である。これは何を表しているのだろう?

 もちろんこれだけを100年眺めていても、この図形の意味はさっぱりわからない。が、図3の土偶(長野県茅野市、棚畑遺跡出土)と比較してみれば、割と簡単に答が出る。

f:id:calbalacrab:20170123111520p:plain図3 棚畑出土*3

  「縄文のビーナス」として有名な土偶であり、見憶えある方も多かろう。この土偶の股間の文様と、例の図形を比較してみよう(図4)。

f:id:calbalacrab:20170123114913j:plain図4

 形はもちろん、全体を浅く彫りくぼめたような表現もほぼ同じであり、偶然似たものではなさそうだ。これらは同じ流れを汲むデザインなのだろう。ところで棚畑土偶の方は位置的に、陰毛を表すものとしか思えない。

 こうなると、月見松土器の方の文様も、やはり陰毛の表現なのだろう。つまりこの土器は全体として、女性(女神?)の体を表しているらしい。もっと言えば、月見松土器の内部の空間は、多分女性の腹の中だ。

 この方法を使えば、かなり抽象的な土器の文様も、解読できる場合がある。要するに、
「ほぼ同時代・同地域の遺物の中から、その文様のオリジナルに近い、より具体的な(意味のわかりやすい)文様」
 を見つければいいということだ。非常に簡単なやり方で、何も難しいところはない。

 「吊手土器の象徴性」ではこの方法で、主に釣手土器の文様を解読したわけだが、それはまた後日。

 

八ケ岳縄文世界再現 (とんぼの本)

八ケ岳縄文世界再現 (とんぼの本)

 

*1:『八ケ岳縄文世界再現』新潮社 1988年より。 

*2:同上。

*3:http://news.walkerplus.com/article/49650/267332_615.jpg