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釣手土器の話 5 - シンプルな方の釣手土器

 釣手土器はお祭用なので、縄文土器の中でもかなり凝ったつくりになっている。でももちろん、顔面把手までついているものは、全体の中のごく一部だ。その他の釣手土器はもう少し地味で、たとえば図1(長野県富士見町、井戸尻遺跡出土)のようなものが多い。

f:id:calbalacrab:20170202004316j:plain図1 井戸尻出土*1

 このタイプの釣手土器は、どうやら女性の頭部を表しているらしい。これは同時代の顔面把手(図2。同県同町、九兵衛尾根遺跡出土)と見くらべてみれば、すぐにわかる。

f:id:calbalacrab:20170202004801j:plain図2 九兵衛尾根出土*2

 見ての通り、顔面把手の顔の部分を打ち抜いて窓にすれば、釣手土器とほぼ同じになる。これはなにも井戸尻のものに限らず、このタイプの釣手土器一般について言えることだ。たとえば、海道前C遺跡(山梨県北杜市)の顔面把手と、大深山遺跡(長野県川上村)の釣手土器などもよく似ている(図3)。

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図3 左:海道前C出土/右:大深山出土*3

 こういった、いわば「顔面把手ブチ抜き型」の釣手土器の存在は、多くの考古学者によって指摘されてきた。たとえば八幡一郎氏は、大深山遺跡4号竪穴出土の釣手土器について、次のように説く。

正面に大きく開く透窓あり、その縁をなす三角形の釣手は、恰【あたか】も顔面把手の顔面を打ち抜いたように、顔面把手の結髪と称せられる意匠がそのまゝに飾られている。*4

 「炎に焼かれる女性(女神)」の姿を、頭部だけで表せば、シンプルなタイプの釣手土器になる。全身像として表せば、(曽利例や御殿場例のような)顔面把手のあるゴージャスなものになるのだろう。

 なお、特に曽利出土の釣手土器が、顔面把手付土器(御所前遺跡出土)のデザインから強い影響を受けていたことは、前回で述べた。全身像タイプもそうでないものも、釣手土器という遺物のデザインは、顔面把手付土器に学んだ部分が多いらしい。

*1:『井戸尻 第8集』富士見町井戸尻考古館 2006年より。

*2:同上。

*3:左:https://www.pref.yamanashi.jp/maizou-bnk/topics/101-200/images/kaodoumaehanakokakudai1.jpg/右:http://line.blogimg.jp/kondaakiko/imgs/2/2/22598148.jpg

*4:八幡一郎『信濃大深山遺跡』川上村教育委員会 1976年、38ページ。