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釣手土器の話 8 - 顔面把手、裏の顔

 引き続き、「釣手土器背面の2つの窓が、目を表してるかどうか」という話だ。これを考える上では、顔面把手と呼ばれる遺物が参考になる。釣手土器のデザインには、顔面把手付土器が大きな影響を与えているからだ(第5回参照)。

 で、顔面把手の裏側を観察してみると、その中にはたしかに「目ばっかりの顔」が、表されたものがいくつかある。一番わかりやすいのは、南養寺遺跡(東京都国立市)の顔面把手付土器(図1)だろう。

f:id:calbalacrab:20170207164923j:plain図1 南養寺出土*1

 裏側(右)には鼻も口もなく、2つの穴が並んでるだけだ。が、眉毛はしっかり描かれており、これはやはり顔だろう。少なくとも、顔面把手にはその裏側に、表側とはまったく違う顔面をもつものがあるということだ。

 ほかにこれに似た例としては、第4回でもとり上げた御所前遺跡出土の顔面把手付土器(図2)がある。

f:id:calbalacrab:20170208202726j:plain図2 御所前出土*2

 この顔面把手の裏側は、正面に表された女性の「後頭部」などではなさそうだ。それは土器本体を見れば、すぐにわかる。把手部分のすぐ下に、正面側とまったく同じ人体装飾があるからだ。つまりこの土器は、「180°回転させることで、女性(妊婦)の表情が一変する」という、凝った仕掛けになっているのである。

 御所前顔面把手の裏が人面なら、これも南養寺の裏面(図1右)と同じく、「目ばっかりの顔」にほかならない。
「表は割と普通の顔なのに、180°回すと目ばかり強調された、奇怪な顔面が現れる」
 というデザインは、縄文時代中期の関東・中部地方で、たしかに使われていたことになる。釣手土器もまたその多くは、同じコンセプトでもってつくられていたのではないか?

 

*1:江坂輝彌ほか編『古代史発掘(3)土偶芸術と信仰』講談社 1974年より。

*2:左・右下:森浩一『図説日本の古代(2)木と土と石の文化』中央公論社 1989年より。/右上:『八ケ岳縄文世界再現』新潮社 1988年より。