釣手土器の話 14 - 双面、または3面の土器
図1 穴場出土*1
穴場遺跡の釣手土器はその背面(窓が複数ある方。図1)に、「目ばかりの顔」を2つ並べている。ここまでは、前回書いた通りである。これに似たような例としては、藤内遺跡(長野県富士見町)や東吹上遺跡(群馬県高崎市)出土の釣手土器がある(図2・3)。
図2 藤内出土*2
図3 東吹上出土*3
どっちも裏側がきれいに二分され、それぞれ目のような窓がある(藤内の方は、左側が大きく欠けていてちょっとわかりにくい)。穴場釣手土器の例からみて、これらも背面に、2つの顔をもっているのだろう。特に東吹上の方は、窓の下にそれぞれ突起があり、鼻を表してるように見える。面白いのは、穴場釣手土器にもよく見れば、同じ位置に突起があることだ(図4参照)。
図4
「目ばかりの顔」に鼻があるのは珍しいが、位置的に鼻としか思えない。これが鼻なら、これらの釣手土器の背面はやはり、「2つ並んだ顔」ということで間違いなさそうだ。
上の3つとは毛色が異なるが、ここでもう1つ、裏が双面になっている釣手土器を紹介しておこう。神奈川県寒川町、岡田遺跡の出土品だ(図5)。
図5 岡田出土*4
これは一見、割と一般的なタイプの釣手土器である。つまり表に窓が1つ、裏に窓2つ。表は女性(女神?)の顔面が窓になっており、裏は「目ばかりの顔」になる。そういう釣手土器があることは、第5回や6回でみた通りだ。たとえば長野県川上村、大深山遺跡の釣手土器(図6)などは典型的である。
図6 大深山出土*5
でも岡田遺跡のものは、これらとは微妙に違っている。よく見れば、裏側がきれいに二分され、左半分と右半分が、まったく同じつくりなのだ。これは多分、「顔面把手ブチ抜き型」(第5回参照)の女性の顔が計3つ(表に1つ、裏に2つ)、並んでる形なのだろう。ちょっと変則的なデザインではあるが、これも「裏が双面の釣手土器」の仲間に入れていいと思う。
これだけいくつも例がある以上、裏側に2つの顔を並べた表現は、ただの気まぐれなどではなさそうだ。何か意味のあるデザインなのだろうが、こればかりはどうもわからない。論文(「吊手土器の象徴性」。くわしくはこちら)でも、話がややこしくなりそうで、この件には一切触れなかった。双面の意味についてはまた、別に考えてみることにしたい。