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釣手土器の話 14 - 双面、または3面の土器

f:id:calbalacrab:20170228155323j:plain図1 穴場出土*1

 穴場遺跡の釣手土器はその背面(窓が複数ある方。図1)に、「目ばかりの顔」を2つ並べている。ここまでは、前回書いた通りである。これに似たような例としては、藤内遺跡(長野県富士見町)や東吹上遺跡(群馬県高崎市)出土の釣手土器がある(図2・3)。

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図2 藤内出土*2

f:id:calbalacrab:20170303231346j:plain図3 東吹上出土*3

 どっちも裏側がきれいに二分され、それぞれ目のような窓がある(藤内の方は、左側が大きく欠けていてちょっとわかりにくい)。穴場釣手土器の例からみて、これらも背面に、2つの顔をもっているのだろう。特に東吹上の方は、窓の下にそれぞれ突起があり、鼻を表してるように見える。面白いのは、穴場釣手土器にもよく見れば、同じ位置に突起があることだ(図4参照)。

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図4

 「目ばかりの顔」に鼻があるのは珍しいが、位置的に鼻としか思えない。これが鼻なら、これらの釣手土器の背面はやはり、「2つ並んだ顔」ということで間違いなさそうだ。

 上の3つとは毛色が異なるが、ここでもう1つ、裏が双面になっている釣手土器を紹介しておこう。神奈川県寒川町、岡田遺跡の出土品だ(図5)。

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図5 岡田出土*4

  これは一見、割と一般的なタイプの釣手土器である。つまり表に窓が1つ、裏に窓2つ。表は女性(女神?)の顔面が窓になっており、裏は「目ばかりの顔」になる。そういう釣手土器があることは、第5回6回でみた通りだ。たとえば長野県川上村、大深山遺跡の釣手土器(図6)などは典型的である。

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図6 大深山出土*5

 でも岡田遺跡のものは、これらとは微妙に違っている。よく見れば、裏側がきれいに二分され、左半分と右半分が、まったく同じつくりなのだ。これは多分、「顔面把手ブチ抜き型」(第5回参照)の女性の顔が計3つ(表に1つ、裏に2つ)、並んでる形なのだろう。ちょっと変則的なデザインではあるが、これも「裏が双面の釣手土器」の仲間に入れていいと思う。

 これだけいくつも例がある以上、裏側に2つの顔を並べた表現は、ただの気まぐれなどではなさそうだ。何か意味のあるデザインなのだろうが、こればかりはどうもわからない。論文(「吊手土器の象徴性」。くわしくはこちら)でも、話がややこしくなりそうで、この件には一切触れなかった。双面の意味についてはまた、別に考えてみることにしたい。

*1:諏訪市博物館の絵はがきより。

*2:上川名昭『甲斐北原柳田遺跡の研究』巌南堂書店 1971年より。

*3:『東吹上遺跡』群馬県立博物館 1973年より。

*4:http://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/206871

*5:左:http://line.blogimg.jp/kondaakiko/imgs/2/2/22598148.jpg/右:http://content.swu.ac.jp/rekibun-blog/files/2012/05/PB130363.jpg