釣手土器の話 23 - 一風変わった釣手土器
札沢遺跡出土の釣手土器(図1)には、ノヅチ(ツチノコ)関係でこのところお世話になっている。今回はヘビだけでなく、土器全体のデザインに注目してみよう。
図1 札沢出土*1
釣手土器の裏側(窓が複数ある方)は、たいてい「目ばかりの顔」になってると、これはもう何度も書いてきた。でも札沢釣手土器は、どうもそういう感じではない。「三角形(むしろ、半円形?)の中に円」みたいなデザインで、少なくとも顔ではないだろう。
図2 北原出土*2
ちなみに北原遺跡の釣手土器(図2)も、よく見ると同じコンセプトだ。ただしこちらは、「三角形に円」が左右に2つ並んだような形になっている。これは第14回で触れた、「裏が双面の土器」と同じ理屈だろう。釣手土器の裏側はどういうわけか、同じデザインを左右に並べた形になることがある。
この「三角形に円」のデザインは、何を表してるものなのか?
この問題は、過去に何度かとり上げた井荻三丁目遺跡の釣手土器(図3左)と比較すれば、割と簡単に答が出る。
図3 左:井荻三丁目出土/右:札沢出土*3
井荻釣手土器も、札沢や北原のと同じく、「三角形に円」のパターンだ。そしてこちらは、その上に顔がついている。顔との位置関係からみて、この真ん中の窓はぶっちゃけた話、女性器を表すものだろう。
ちなみに井荻例の窓のまわりのパーツは、よく見るとヘビの頭である。いまは1つが欠けているが、もともとは5つあったのだろう。ヘビにまみれているところも、井荻例と札沢例はよく似ている。
井荻例の真ん中の窓が性器なら、顔のすぐ下に性器があるということになる。一見妙なデザインだが、曽利遺跡出土の土器(図4左)も、だいたい似たような形である。
図4 左:曽利出土/右: 井荻三丁目出土*4
やはり顔(多分)のやや下に、股間にぶら下がるように性器がある。全体的なデザインも井荻例によく似ており、特に頭上の「上に向かって口を開けたヘビ」がそっくりだ(くわしくは第10回参照)。
曽利遺跡の土器と、井荻や札沢、また北原の釣手土器はデザイン的に、同じ流れをくんでいるのだろう。そのつもりで曽利土器と札沢釣手土器をくらべると、曽利例で性器に向かってる謎の矢印*5が、札沢の「性器をのぞきこむヘビ」そっくりに見えてくるのも楽しい(図5)。
図5 左:曽利出土/右:札沢出土