神話とか、古代史とか。

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釣手土器の話 33 - ヘビと火山

f:id:calbalacrab:20170913114333j:plain図1 井荻三丁目出土*1

 前回、井荻三丁目遺跡の釣手土器(図1)について、「噴火する火山そのものに」見えるとした。ところでこの井荻釣手土器には、ヘビの頭が4つついている。これは多分、死の象徴としてのヘビだろうが(第20回)、火山活動(溶岩流など)をヘビとして表現した例もないではない。余談だが、ここでいくつか紹介しておこう。

 ヘビと火山と言えば、まずはギリシア神話の怪物・テュポンが挙げられる*2。テュポンは首から上に、100匹のヘビの頭が生えてる蛇神だった。ゼウスに敗けた後、エトナ火山*3の下敷きにされているそうだ。エトナ山が火を噴くのはそのせいだというから、テュポンは火山の神格化(むしろ、怪物化?)でもあるのだろう。「火のついた岩を投げつつ」攻め寄せたというのも、火山弾のこととみて間違いなさそうだ。

 また、イランの神話には、「アジ=ダハーカ」という3ツ首の竜(またはヘビ)が登場する。英雄・スラエータオナに敗れたダハーカは、ダマーヴァンド山に幽閉されたという*4。ダマーヴァンドは活火山であり、ダハーカも、火山を象徴する蛇神だろう。

 ちなみにダハーカは歴史伝説では、「ザッハーク」という暴君として登場する。アニメ観ただけであまりくわしくはないが、田中芳樹の小説『アルスラーン戦記』でも、「デマヴァント山に封印された蛇王・ザッハーク」が、いろいろ鍵になっているらしい。

 ここまでは海外の事例だが、日本にも、特に溶岩をヘビにたとえた記録がある。
 まず『日本三代実録』(901年)では、871年の鳥海山*5の噴火が次のように描写されている。

 2匹の大蛇があり、長さは10丈ばかり*6。ともに流れ出て海に入る。数知れぬ小蛇もこれに従った*7
(貞観13年5月16日)

 また『長門本平家物語』(巻4)にも、霧島山*8の噴火(10世紀?)について、以下のような記述がある。

 周囲が1、2丈、長さ10丈あまりの大蛇が、枯れ木のような角を生やし、目を日月のように輝かせて、大変怒っている様子で現れた*9

 どちらの大蛇も、普通に溶岩のことだろう。

 なお、物理学者の寺田寅彦はヤマタノヲロチについても、
「火山からふき出す溶岩流の光景を連想させる」
 と唱えている*10。ヲロチがいたという鳥髪山(船通山)は火山ではないから、あまり有力とは言えないが、ちょっと捨てがたい説ではある*11

*1:江坂輝彌ほか編『古代史発掘(3)土偶芸術と信仰』講談社 1974年より。

*2:テュポンについては、アポロドーロス『ギリシア神話岩波書店 1953年 39~40ページと、ヒュギーヌス『ギリシャ神話集』講談社 2005年 216ページ。ヘシオドス『神統記』岩波書店 1984年 103ページも参照した。

*3:イタリア南部、シチリア島の山。

*4:ジョン=R=ヒネルズ『ペルシア神話』青土社 1993年 83~84ページ。

*5:山形・秋田県境の山。

*6:1丈は約3メートル。

*7:原文は、
「有両大蛇。長十許丈。相流出入於海口。小蛇随者不知其数。」

*8:鹿児島県と宮崎県にまたがる火山群。

*9:原文は、
「廻り一二丈そのたけ十餘丈ばかりある大蛇の、角はかれ木の如くおほひかゝり、眼は日月の如くかがやきて、大にいかる様にて出來給ふ。」
(『平家物語 長門本国書刊行会 1906年 132ページ。)

*10:寺田寅彦随筆集(4)』岩波書店 1948年 150ページ。

*11:島田荘司『出雲伝説7/8の殺人』でも、ヲロチ=溶岩説がとり上げられている。