スサノヲとナマハゲ 2 - 訪れる神
「スサノヲと植物仮装来訪神」という論文(くどいようだが、「はじめに」からダウンロードできる)のキモは、ざっくりまとめるとこういうこと(↓)になる。
一見よくわからん神であるスサノヲだが、その一番コアになる性格は、「植物仮装来訪神」としての顔なんだろう。
でもこの「植物仮装来訪神」というのが、そもそもなんのことだかわかりにくい。「植物仮装」はいったん置いといて、まずは来訪神の話から入ろう。
図1 ナマハゲ*1
来訪神とは平たく言えば、
たいていの場合年に1度、決まった時期に人里を訪れる神、または神々。農作物の豊作とか、そういう「福」をもたらしてくれる。
というものだ。姿は見えないとされることもあるが、たいていは目に見える形で現れる。もちろんこの場合、村の若者とかが神々に扮しているのである。秋田のナマハゲ(図1)や、西洋ではサンタクロースが特に有名だ。
ナマハゲとサンタクロースは全然違うじゃん、と思われるかもしれないが、これが実はそうでもない。たとえば図2は、ドイツ・バイエルン州のサンタクロース御一行だ。
図2 ドイツのサンタクロース*2
手前の3人の背後に、「おまえどう見てもナマハゲだろ」としか思えない何かがしれっと続いている。
「サンタたちの楽しげな様子が気に入らないので、うしろから命を狙ってる」
とか、そういうことではない。この2人(2体?)は「クランプス」といって、ドイツやオーストリアのサンタクロース(聖ニコラウス)には、普通について来るものなのだ。「親の言うことを聞け」「勉強しろ」などと子供を脅すそうだから*3、ますますナマハゲと変わらない。
クランプスとナマハゲの違いを無理に探すなら、その1つは着てるものだろう。クランプスの衣裳は普通毛皮だから、その点ナマハゲとは異なる。でも、ドイツなどではクランプスだけでなく、図3のような人たちも、サンタについて来るのである。
図3 左:ブットマンドル/右:シャーブ*4
ブットマンドルはドイツ(バイエルン州)、シャーブはオーストリア(シュタイアーマルク州)の来訪神である*5。どっちも、「知られざる東北の奇祭」と言っても通りそうな見てくれだが、これでヨーロッパの祭なのだ。西ヨーロッパと日本と言えば、全然違う文化な気がするが、民俗宗教の世界では、そんなことお構いなしである。
ちなみにナマハゲもブットマンドル(シャーブ)も、藁で体を覆っている。稲藁と麦藁という違いはあるが、これらは問題の「植物仮装」の一種である。
もちろんナマハゲその他については、
「別に植物とか関係なくて、寒いから蓑着てるだけなんじゃないの?」
とみることもできる。でも来訪神たちは南の方でも、ちょいちょい植物を身にまとっている。日本では、沖縄県宮古島の「パーントゥ」や、鹿児島県悪石島の「ボゼ」などがそれだ(図4)。これはもちろん、ただの防寒着などではない。
こんな風に、一見植物のお化けみたいな来訪神を、「植物仮装来訪神」と呼ぶことにする。スサノヲも、もとをただせばこんな感じの神だったんじゃないのということを、じわじわ明らかにしていきたい。
*1:https://media-cdn.tripadvisor.com/media/photo-s/09/57/99/4c/caption.jpg
*2:https://s3-us-west-1.amazonaws.com/blogs-prod-media/us/uploads/2013/12/24170628/iStock-501028040.jpg
*3:芳賀日出男『ヨーロッパ古層の異人たち』東京書籍 2003年 80ページ。
*4:左:http://www.salzburg24.at/2013/11/buttnmandl-an.jpg/右:http://www.bad-mitterndorf.at/uploads/pics/schab.jpg
*5:くわしく調べたい人のために、アルファベット表記も書いておこう。クランプスはKrampus、ブットマンドルはButtmandl、シャーブはSchab、またはSchabmännerと書く人が多い。
*6:左:http://www.miyakomainichi.com/wp/wp-content/uploads/2017/03/d8c46d4b815f332d8da202348a9c4031.jpg /右:http://www.sankei.com/photo/images/news/170906/sty1709060013-p2.jpg