スサノヲとナマハゲ 8 - 種まく子ら
前回に続き、「スサノヲ=植物仮装来訪神」説に有利だなぁ、と思える神話を挙げていこうという話である。今回はその第2弾、「スサノヲと植物との結びつきが、間接的にうかがえる」神話特集だ。要するに、スサノヲの関係者(特に子供たち)には、植物神・穀物神の類が多いということを語れればそれでいいと思う。
スサノヲの子供らの中で、植物と縁が深いと言えば、まずは「五十猛(いたける)」が代表格だろう。『日本書紀』によれば、日本列島に種をまき、樹木まみれにしたのはこの神だ*1。
スサノヲは、イタケルを連れて天下った。このときイタケルは、大量の樹木の種をたずさえていた。九州から始めて日本中にまき、いたるところ緑の山にした*2。
ちなみにイタケルには、「大屋津姫(おほやつひめ)」「柧津姫(つまつひめ)」という妹たちがいて、3人で種まきをしたとも言われている*3。息子だけでなく娘らも、結構活躍しているのである。
一方『出雲国風土記』だと、スサノヲの息子の中に、「青幡佐草日子(あをはたさくさひこ)」というのがいる。名前からしていかにも植物神だが、こんな神話もある。
土地の古老によれば、スサノヲの子であるアヲハタサクサヒコが、昔この山に麻をまいた。だから山の名を「高麻(たかさ)山」という*4。
イタケル兄妹もそうだがスサノヲの子は、よくよく種まきが好きらしい。
種はまかないが、『古事記』だとこんな場面もある。
スサノヲはまた、オホヤマツミの娘・神大市比売(かむおほいちひめ)も嫁にした。彼女が産んだ子は、「大年(おほとし)神」と「宇迦之御魂(うかのみたま)神」*5。
一見なんてことない名前だが、オホトシの「トシ」は、稲の稔りを意味する古語だそうだ*6。ウカノミタマの「ウカ」は食物だが、『日本書紀』では同じ神の名を「倉稲魂」と書く。字面からみてこの「ウカ(倉稲)」は、特に米飯のことだろう。つまりどっちも、穀物の神にほかならない。
この通り、子らの顔ぶれをみてもスサノヲは、植物・穀物と縁の深い神なのである。
ちなみにスサノヲの嫁(その1人)の名は「奇稲田姫(くしなだひめ)」で、稲田という言葉が入っている。夫婦が暮らした屋敷の管理人も「稲田宮主」*7だから、このあたりは水田推しがえぐい。
ついでに書いとくと、「おおとし(大歳)」と言えば、大晦日を意味する古語でもある。来訪神は小正月(旧暦1月15日)か、大晦日(=大歳)に来ることが多い。オホトシというのは二重の意味で、植物仮装の来訪神に縁のある言葉なのである。