神話とか、古代史とか。

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スサノヲとナマハゲ 9 - 「底」と「根」の国

 「『スサノヲ=植物仮装来訪神』説に有利な神話を挙げていく」シリーズ第3弾は、「スサノヲと根の国との結びつきを物語る神話」だ。ちなみに「根の国」とは、要するに死後の世界である。
「その根の国と、植物仮装来訪神になんの関係が?」
 という点は、おいおい明らかにしていこう。

 そもそもスサノヲの物語は、『古事記』や『日本書紀』ではスサノヲが、「母のいる根の国へ行きたい!」と泣き叫ぶ場面から始まる(すでにひげ面のおっさんだったのだが)。その後天界で暴れたり、ヤマタノヲロチを退治したりといろいろありつつも、根の国への思いは、常にみなぎっていたらしい。実際、結婚して新居を構えたかと思えば、次の場面では、もう根の国へ行ってしまっている。

八雲立つ 出雲八重垣妻ごみに 八重垣つくる その八重垣を
(訳: 出雲で嫁と暮らすため、八重垣とかつくったことであるよ。あぁ、八重垣だなぁ*1。)

 とかなんとか、かっこつけて歌まで詠んだのに、なんのための新居かわからない。ほとんど根の国へ行くことだけが、人生の目的になってた節がある。

 ここでついでにスサノヲの母親についても触れておこう。彼が恋い焦がれる母親とは、「釣手土器の話」でさんざんとり上げたイザナミという女神だろう。ただし『古事記』では、スサノヲはイザナギイザナミの夫)が鼻を洗ったときに生まれた子供で、母親はいない。でも『日本書紀』には、普通にイザナミから生まれたという神話もあり、一応イザナミの息子ということでOKだ。

f:id:calbalacrab:20180128224637j:plain図1 アカマタ・クロマタ*2

 さて。スサノヲの方はいったんおいといて、植物仮装来訪神たちはどこからやって来るか? 日本の南の島々では、おおむね「ニライカナイ」という異世界から来ると言われている*3。全部が全部ではなかろうが、特に八重山アカマタ・クロマタ(図1)などはそうだ*4

 ニライカナイは海の彼方にあるとも、地底にあるとも言われており、死者の霊魂がおもむく国でもある。別名は「ニーラスク」または「ニルヤソコ」で、ニは「」、ソコ(スク)は「」を意味すると考えられている*5
 このように、来訪神の原郷――ニルヤソコ(ニライカナイ)の名に、「根」と「底」が入ってることは結構重要だ。神話の根の国も、「底つ根の国*6とか、「根国底の国」*7とか呼ばれているからだ。

 死後の世界を「根の国」「底の国」などと呼ぶのは、日本の古い風習なのだろう。沖縄など南の島々には、その文化がのちのちまで残っていたらしい。言葉の意味からすれば、根の国(底つ根の国)とニルヤソコは、ほぼ同じものと言ってもいいくらいだ。

 スサノヲが根の国の神なら、それはつまり、ニルヤソコ(ニライカナイ)の神だということでもある。スサノヲはいま、アカマタ・クロマタらとニルヤソコで、多分同居中なのだろう*8

 余談だが、さっき出てきたスサノヲの歌(「八雲立つ~」)について。『古事記』『日本書紀』には多くの歌が載っているが、一番最初に出てくるのは、どちらでもこの歌である。しかもすでに、5・7・5・7・7の短歌になっており、紀貫之(『古今和歌集』の編者)に言わせれば、スサノヲこそ和歌の創始者だ。いろいろと残念なところも多いスサノヲだが、意外と文化的な一面もあるのだといまさらフォローしたい。

*1:結局八重垣しか言ってない。

*2:ただしこれは、シロマタという第3の神。http://husigimystery.info/allan/wp-content/uploads/2017/05/akakuro.jpg

*3:日本の歴史と文化』国立歴史民俗博物館 1985年 128~129ページ。

*4:『日本「鬼」総覧』新人物往来社 1995年 186~187ページ。

*5:ニライカナイとは - コトバンクと、『日本「鬼」総覧』新人物往来社 1995年 186ページ。

*6:岩波文庫日本書紀(1)』1994年 86ページ。

*7:古事記 祝詞岩波書店 1958年 426ページ。

*8:仲良くやれてるか心配だ。