スサノヲとナマハゲ 12 - 病は「木」から
蘇民将来伝説(前回参照)のスサノヲは、茅の輪を着けてない人間を、ひと晩で全滅させている。どうやって殺したかは書いてないが、すぐ後に、
「疫病が発生したときは、茅の輪を着けろ」
とのセリフがある。ということはこのときも、疫病でさくさく殺したのだろう。この物語のスサノヲ(武塔神)には、厄病神としての性格があるということだ。
ところでスサノヲは、植物神でもある(第7・8回)。植物の神が病気をまき散らすというのはちょっと、一見似合わない気もするが、そうでもないらしい。疫病と植物が結びつく話は、鹿児島県の奄美大島にある。
「厄病神」
浜辺の塩焼き小屋に、船に乗った人が大勢訪ねてきた。小屋の主に「一晩泊めて」と頼むが、断られてまた船出した。
次の小屋では泊めてもらえたが、夜になるとこの客たち、バショウやソテツ(図1)など、木の根になって転がっている。小屋の主人が気味悪がり、熱湯ぶっかけると、客たちはあわてて逃げ出した。
3つ目の小屋ではもてなしてくれて、木の根になってても怖がらず、翌朝は普通に起してくれた。客たちは小屋の主人から、親族一同の名前を聞き、帳面に書きとめた。
「そのうちこの島に、『しょかん病』という病気がはやる。おまえの一族だけは助けるから、このお札を家の入口に掛けておけ。」
彼らはそう言って、一族の数だけ札をくれた。
やがて客たちの予言通り、疫病がはやり、札を持たない者は全滅した*1。
図1 左:バショウ/右:ソテツ*2
これはどうみても、蘇民将来の話にそっくりだ。そしてこの物語の厄病神たちは、眠ってる間は木の根になっていた。これはもちろん、彼らが木の化身だからだろう。
どうやら日本には、「木の神が疫病をはやらせる」という考え方があったらしい。植物神であるスサノヲに、厄病神(疫神)としての性格があっても、別に不思議じゃないのである。