スサノヲとナマハゲ 14 - スサノヲの2つの顔
「スサノヲ=植物仮装来訪神」説に有利な神話として、第7回から11回までに、以下の物語をとり上げてきた。
1. スサノヲ本人が植物と、直接結びついている話(第7回)
・スサノヲが木をつくる話――『日本書紀』
・草を束ね、蓑と笠にする話――『日本書紀』
・木の葉を頭に飾って踊る話――『出雲国風土記』
2. スサノヲの子らと植物(穀物)の話(第8回)
・スサノヲの子であるイタケルらが、木の種をまく話――『日本書紀』
・同じくサクサヒコが、麻をまく話――『出雲国風土記』
・スサノヲの子として、穀物神(オホトシら)が生まれた話――『古事記』
3. スサノヲと冥界との結びつきを物語る話(第9回)
・スサノヲが「根の国」へ行きたがり、実際行く話――『古事記』『日本書紀』
4. 食物を出してくれる女神を殺す話(第10回)
・スサノヲのオホゲツヒメ殺し――『古事記』
5. 人里を訪ね、冷遇されたら罰を与える話(第11回)
・蘇民将来の話――『備後国風土記』
『古事記』『日本書紀』『出雲国風土記』『備後国風土記』と、多くの書物にまたがってるところに注目してほしい。実はスサノヲという神については、
「『古事記』『日本書紀』のスサノヲと、『出雲国風土記』のそれとでは、大違い」
と言われることが多い。
……『出雲国風土記』に登場するスサノオは、まったくと言ってよいほど荒ぶる神としての性格を見せていない。
(瀧音能之編著『風土記謎解き散歩』中経出版 2013年 142ページ)
風土記で描かれるスサノヲには、「啼きいさち」る神や、祓われる神としての顔は、みじんも見えない。農業や冶金にかかわる神の要素はあるけれど、暴風雨神や荒神的な要素もない。
(藤巻一保『古事記外伝』学研パブリッシング 2011年 211ページ)
たしかに風土記のスサノヲには、割とおとなしい印象がある。記紀*1の天岩戸神話やヤマタノヲロチ神話でみせた、「荒ぶる神」「英雄神」としての面影はない。
が、スサノヲ神話全体からみれば、ヲロチ退治の場面とかがむしろ異質なのだ。第1回でも書いたけど、これらが目立ちすぎるせいで、スサノヲという神の本質がわかりにくくなっているのである。
植物仮装来訪神(植物神+来訪神)としての側面に注目してみれば、記紀と風土記のスサノヲ神話は、案外一貫していることがわかる。
たとえば、植物を身に着けたスサノヲは『日本書紀』にも、『出雲国風土記』にも登場する(第7回)。植物神の父だという話も、その両方にある(第8回)。宿を求めて断られる場面も、『日本書紀』と『備後国風土記』にあって(第7・11回)、
「(同じ神だからあたりまえだけど)やっぱり似たような話が多いことよ」
の感が強い。
スサノヲについては、たとえば暴風雨の神だという説が有力視された時期もある。が、暴風雨説でもいけそうなのは記紀のスサノヲだけで、風土記にそれらしい場面はない。
一方、「スサノヲ=植物仮装来訪神」説なら、記紀と風土記、両方のスサノヲ神話(その大部分)を説明することができる。これはつまり、スサノヲという神の一番「根っこ」のところが、植物仮装の来訪神であるからだろう。
天岩戸神話やヤマタノヲロチ神話は、多分後からスサノヲにくっついてきたエピソードだ。いつ、どのようにくっついたかは、また別に考えてみる必要がある。このシリーズ(?)ではとりあえず、スサノヲの根っこのところだけわかったらそれでOKだ。