神話とか、古代史とか。

日本をはじめあちこちの神話や古代史、古代文化について、考えたこと、わかったこと、考えたけどわからないことなど。

スサノヲとナマハゲ 17 (終) - 鳥と獣と穀物霊

f:id:calbalacrab:20180812110125j:plain
図1 山形のカセ鳥*1

f:id:calbalacrab:20180812110352j:plain
図2 佐賀のカセドリ*2

 前回、「カセドリ」と呼ばれる来訪神たち(図1・2)が、鳥とみなされてることに触れた。最後にもう少し、この件について補足しておこう。ここへ来て、スサノヲとあまり関係ない話題でしめるのもちょっとどうかと思うが、話の流れだから仕方ない。

 山形でも佐賀でも、カセドリは植物仮装だから、普通に植物(穀物)の神だろう。「植物神=鳥」という考え方は割と昔からあるようで、たとえば『豊後国風土記』にこんな話がある。

 昔、速見郡には多くの水田があった。収穫が多すぎて、余ったイネを畝(うね)に放置するほどだった。莫大な富に思い上がった人々は、餅を弓矢の的にして遊んだ。すると餅は白い鳥になり、南へ飛び去った。その年のうちに人々は死に絶え、水田は荒野になったという。
(『豊後国風土記速見郡条)

 弓矢の的にされた穀物霊(稲魂)が怒り、住民たちは見放されたということだろう。そしてここでの稲魂は、白い鳥(ハクチョウとは限らず、鶴とかかもしれない)だった。カセドリたちの場合と同じく、「穀霊=鳥」であることがわかる。 

 一方ヨーロッパでは、穀霊はヤギとかオオカミとか、いろんな動物と同一視されていたらしい。たとえばドイツでは、麦畑には「ロッゲンヴォルフ」*3という6本足のオオカミがいると言われてるが*4、これも穀霊としてのオオカミなのだろう。収穫の際、最後に残った麦束を動物の形に編み込むのも(図3)、「穀霊=獣」という思想の表れだ。

f:id:calbalacrab:20180814104556j:plain図3 ユールボック Julbock*5
 スウェーデンの麦藁ヤギ。 

f:id:calbalacrab:20180814105820j:plain
図4 左:ドイツのシュトローベーア/右:イギリスのストローベア*6
 なぜかノリノリのストローベア。「Oh, yeah!」という声が聴こえてきそうである。

 ところでヨーロッパの来訪神たちは、割とあちこちで、「麦藁熊」とも呼ばれている(図4のシュトローベーアストローベアなど。くわしくは前回)。どうやらこの場合、穀霊(麦魂)は熊とみなされていたらしい。実際、たとえばズウォトゥフ(ポーランド)では、最後の麦束はオオカミなどではなく、熊の形に編まれていた*7

 こうしてみると、「どの動物が穀物霊に見立てられるか」ということに、特に決まりはないようにみえる。これは多分、もともとどの動物を信仰していたかによって、左右されるのではなかろうか? たとえば熊を信仰する人々が、ある日農耕(麦畑)を始めたとしよう。彼ら(彼女ら)はその新しい暮らしにも、昔ながらの信仰をそのままもってきて、「麦魂=熊」ということにしたんだろう。
 この場合、麦と熊に似てるところがあるかどうかとか、そのへんはどうでもよさそうだ。実際、日本のカセドリは鳥に見えないし、ヨーロッパの麦藁熊たちも熊に似ていない。この手のアバウトさと言うか大らかさは、民俗宗教の1つの持ち味だ。 

f:id:calbalacrab:20180814112111j:plain図5 イナウ*8

 ちなみに「鳥と穀霊」と言えば、いわゆる「削りかけ」という呪具の存在も気になる。アイヌ民族の「イナウ」(図5)が有名だが、削りかけ自体は日本中にあり、北海道限定アイテム(木彫りの熊的な)というわけでもない。イネやアワなどの穂を表すと言われてるが、一方で、鳥の象徴という話もよく聞かれる*9。実際、太宰府天満宮(福岡県)の「木うそ」(図6)は削りかけであり、見ての通りの鳥でもある。

f:id:calbalacrab:20180814112321j:plain図6 木うそ*10

 削りかけについてはなんと言うか、ぶっちゃけた話よく知らないので、おいおい調べてみたいものだ。

*1:https://tabisuke.arukikata.co.jp/schedule/51133/image/

*2:https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/0/0b/Mishima%27s_Kasedori_2017-02-11_01.jpg/1200px-Mishima%27s_Kasedori_2017-02-11_01.jpg

*3:ライ麦狼」。アルファベットだと、Roggenwolf。

*4:植田重雄『ヨーロッパの祭と伝承』講談社 1999年 258、261~262ページ。谷口幸男ほか『ヨーロッパの森から』日本放送出版協会 1981年 188~189ページも参照。

*5:https://www.elle.se/wp-content/uploads/2015/12/julbock.jpg

*6:左:https://i.pinimg.com/736x/fc/22/e0/fc22e0b28d29d71021967e7755b6f97d--bear-costume-ash-wednesday.jpg/右:http://farm9.staticflickr.com/8078/8396169176_3d146570cb_z.jpg

*7:谷口幸男ほか『ヨーロッパの森から』日本放送出版協会 1981年 197ページ。

*8:http://3.bp.blogspot.com/_lJ1DpaHyDSs/TDaeCLACPuI/AAAAAAAADTU/tQaecBf0dKA/s1600/%E3%82%A4%E3%83%8A%E3%82%A6.jpg

*9:大林太良「Inauの起源について」(『民族学研究』24巻4号 日本民族学会 1960年)。ここからダウンロードできる。

*10:http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/22/dc/78fbb2a1be60fa81cd477ef4d6b49efa.jpg