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新版・世界の七不思議 1 - これでいいのか、七不思議

 ここらでちょっと趣向を変えて、「新版・世界の七不思議」というのを考えてみたい。要は、これまで発表された「世界の七不思議」にいろいろ不満があるので、自分的に納得いくものを選定したいという話だ。あるいは世界の遺跡について、「ああでもない、こうでもない」と言いたいという話でもある。

 「世界の七不思議」については一応、「ビザンティウムフィロン」という人が設定したものが元祖とされている。フィロン古代ギリシアの数学者で、紀元前3~2世紀の人だそうだ。

 「①ギザの大ピラミッド」「②バビロンの空中庭園」「③エフェソスのアルテミス神殿」「④オリンピアのゼウス像」「⑤ハルカナッソスのマウロソロス霊廟」「⑥ロードス島の巨像」「⑦アレクサンドリアの大灯台」(または「バビロンの城壁」)*1の7つだが、いまとなっては正直、ピンと来ない。だいたいこの中で、きっちり現存するのは①のギザのピラミッド(図1)だけで、あとはだいたい跡形もない。実際見られもしないものを、
「これが世界を代表する、驚異の建造物だ!」
 と言われても困る。

f:id:calbalacrab:20180903145828j:plain図1 ギザのピラミッド*2

 元祖・「世界の七不思議」がこうなので、現代版を新たに制定しようと企画した人は少なくない。中でも有名なのは、スイスの財団が2007年に発表した「新・世界七不思議*3だろう。でもこれ、20世紀の建造物である「コルコバードのキリスト像」(図2)が入っていたりして、ピンと来ないという点では、フィロンのと大差ない気がする(ネットや電話の投票をもとに決めたため、重複投票やら組織票やらで、おかしなことになったらしい)。

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図2 コルコバードのキリスト像*4

 ほかには「世界ふしぎ発見」(TV番組)や『Newton』(科学雑誌)が選んだ七不思議もあるが*5、前者にはなぜか1つだけ、人工物ですらない「エアーズロック」(図3)が入っている*6
 『Newton』の方には2003年版と、2013年版がある。2003年版には、現存しない「伝説の国ディルムン」があるなど、かなり様子がおかしい。2013年版はだいぶまともだが、単体の遺跡とは言えない「マヤ文明」が入っていたりする*7。「世界の七不思議」現代版の歴史はなんと言うか、死屍累々の観を呈している。

f:id:calbalacrab:20180903150236j:plain図3 エアーズロック*8

 改めて言うまでもないが、ここは個人(私)が適当にやってるブログである。どんな野放図な選考をしても、上司に怒られたり、クライアントからダメ出しされたりすることはない。でもやはり、死屍累々の仲間入りはなるべく避けたいので、ここは一つ、選考の基準的なものを設けてみることにしよう。

 まず大前提として、最低限これだけは満たしてくれないと、エントリー不可なのは次の4つである。

1. 人工物であること。
 そもそもフィロンの「七不思議」からして、すべて人工の建造物である。いくら驚異的なもんだろうと、自然物ならその時点でアウト。
 だいたい規模の壮大さで言えば、人工物が自然物にかなうはずもない。「人工」という縛りを外したら、自然物ばかりになりかねない。
2. 動かせないこと。
 フィロンの「七不思議」はすべて巨大であり、現存すれば「遺物」ではなく、「遺跡」とされるものばかりだ。もちろん、エジプトのアブ=シンベル神殿だって移築できたりするから(図4)、「絶対動かせない」必要はない。でもやはり、簡単に持ち運べるようではダメだろう。
3. 現存すること。
 すでに書いたけど、見られないんじゃお話にならない。
4. 比較的狭い範囲に集中すること
 いくら見どころが多くても、「メソポタミア文明の遺跡」とか、アバウトすぎるのは論外だ。

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図4 アブ=シンベル神殿*9
 アスワンハイダムを造るため、1964~8年、まるごと解体・移築された。右は解体中だが、いつ見てもすげえ。

 これらをクリアした上で、さらに優劣を判定するための基準もいる。さしあたり、次の4点でどうだろう。

1. 謎度
2. びっくり度
3. 古さ
4. 知名度

 まず「1. 謎度」は文字通り、「いったい誰が、なんのために?」または「どうやって?」などの部分で、謎があるかどうかということだ。その謎が大きく、深いほど、「世界の七不思議」にはよりふさわしいということになる。
 でもこれ、「七不思議」という語感にやや引っぱられ過ぎの感もある。そもそも「七不思議」という訳語は、あまり正確なものではない。フィロンらが使ってた言葉は本来、「七つの必見の景観」とでも訳すべきものだったらしい。要するに、「驚異的な人工物」ならなんでもいいのであって、謎的な要素は必要ないと言うこともできる。
 一見もっともな話だが、ほんとにそうか? という気もする。遠い昔の建造物を見て「驚異」を感じる場合、そこには「不思議!」という感覚も、普通に含まれてるもんではなかろうか。同じ建物を見た場合でも、
「いつ、誰が、なんの目的で建てたのか? またそこに使われた建築技術も、完成後にどう使われたかも、皆目わかりません」
 と言われるのと、「全部記録が残ってます」と言われるのとでは、「驚異」の感じ方は違うだろう。なんやかんや言ってもやはり、「世界の七不思議」に謎の要素は必要だと思う。

  「2. びっくり度」はそのまんまで、特に解説の必要もない。要は先ほどの「驚異」であり、ぱっと見で「おお、すげえ」と思えるかどうかが重要だ。もちろん、素人にはわからなくても専門家が見れば、
「実はこの点が画期的で、まことに驚くべきものなのであります」
 という場合も当然、あるだろう。でもここでは、素人目にも「すげえ」と思えるかどうかが大事なので、そういうちまちました「驚異」は対象外とする。

 「3. 古さ」。同じ建物なら古けりゃ古いほど、人間は「すげえ」と思いやすい。古い方が記録も少ないから、謎度も高くなることが多い。だいたい近・現代の建築まで加えていいのなら、「七不思議」の候補は年々増え続け、そのたびに更新しないといけなくなる。どれくらい古けりゃいいのかは微妙な問題だが、個人的には少なくとも、アメリカ大陸の存在がヨーロッパにも知られた時期――1500年ごろよりは前であってほしいという気がする。

 「4. 知名度」も、ほかの3つほどではないけど重要だ。「これが新版・世界の七不思議です!」と発表されたものの中に、聞いたこともないような遺跡が入ってたら、やっぱりどうも腑に落ちない。歴史音痴を自負する人ならともかく、古代遺跡にある程度、関心もってればなおさらだ。

 次回以降、これらの基準を参考に、「七不思議」候補を挙げていこう。

*1:フィロンはバビロンの城壁を7番目にしたが、6世紀ごろから、アレクサンドリア灯台に替えられたらしい。バビロンから2つエントリーしたのがダメだったのだろうか?

*2:http://sekaijapan.web.fc2.com/images/e1.jpg

*3:新・世界七不思議 - Wikipedia

*4:https://www.stopandstare.nl/wp-content/uploads/2015/07/headerrio1.jpg

*5:地球ガイド「世界の七不思議」

*6:内訳は、「①グレートジンバブエ」「②メルブ遺跡」「③楽山大仏」「④モアイ」「⑤マチュピチュ」「⑥アンコール=ワット」「⑦エアーズロック」。

*7:2003年版は「①エジプトのピラミッド」「②パルテノン神殿」「③最古の都市エリドゥ」「④伝説の国ディルムン」「⑤パルミラ遺跡」「⑥マヤのエル=ミラドール遺跡」「⑦南太平洋の巨石文化」。2013年版は、「①ギザの大ピラミッド」「②ストーンヘンジ」「③イースター島」「④ナスカの地上絵」「⑤マチュピチュ」「⑥マヤ文明」「⑦アンコール遺跡」。

*8:http://travelzaurus.com/wp-content/uploads/2016/09/uluru-1024x683.jpg

*9:左:http://wanderingtrader.com/wp-content/uploads/2016/01/Abu-Simbel-Temples-728x421.jpg/右:https://hiddenincatours.com/wp-content/uploads/2014/04/rebuilding_the_great_temple_of_abu_simbel_BB2435.jpg