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新版・世界の七不思議 7 - クノッソスとペトラ

 「世界の七不思議」の候補を挙げてくのも、クラスBまで終わったので、ここからはクラスCである。クラスA・Bの間には、実質的な差はなかった。でもクラスCについては、それぞれ「七不思議」候補として、ちょっと推しにくい理由がある。でも捨てがたい魅力もあるので、一応紹介はしておきたい。まずクラスCの顔ぶれは以下の通りである。

クノッソス宮殿ギリシャ
ペトラ(ヨルダン)
サン=アグスティン(コロンビア)
兵馬俑(中国)
万里の長城(中国)
三星堆遺跡(中国)
オルメカの巨石人頭像(メキシコ)
飛鳥の石造物(日本)
メスカルティタン(メキシコ)
グラストンベリ=トール(イギリス)

 今回は、②のペトラまで紹介する。

① クノッソス宮殿ギリシャ

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謎度: ☆☆☆☆☆
びっくり度: ☆☆☆
古さ: ☆☆☆☆
知名度: ☆☆☆☆☆

 地中海東部、クレタ島にある。古代ギリシアに先立つエーゲ文明*1の1つ、クレタ文明を代表する遺跡だ。何度か建て直されてるが、最初の宮殿ができたのは、紀元前1900年ごろだろう*2。モヘンジョ=ダロ(第4回)と同じく、歴史の教科書にも載ってるいわば大御所だ。

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図1 左:クレタ象形文字/中:線文字A/右:線文字B*3

 エーゲ文明の古代文字のうち、「線文字B」は解読されている。でもこれは、クレタより後のミュケナイ文明*4の文字だ。クレタ文明の文字である「クレタ象形文字」や「線文字A」は未解読なので、この文明については謎が多い。クレタにはまた、「ファイストス円盤文字」(図2)と呼ばれる未解読文字もある。この円盤以外に使用例が出てこない不思議な文字であり、クレタ文明の「謎度」はかなり高い。

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図2 ファイストス円盤文字*5

 ではなぜ、クノッソスがクラスCなのかと言えば、これはまず遺跡の状態による。「最近復元されてるよね?」と、素人目にも丸わかりの部分が多いのだ。紹介写真*6のテラスにしても、ペンキ塗り立ての模型のようで、3千年の重みはカケラもない。重要な遺跡でありながら、世界遺産に未登録なのもそのためだ。
 この復元は19世紀末、クノッソスを発掘したアーサー=エヴァンズの仕事である。復元の雑さと安っぽさについては、「100年以上前のことだから」と、擁護するむきもあるようだ。でもこのエヴァンズ氏、自説に都合の悪い出土品を隠蔽したりもしてたのがのちに発覚した*7
 こういう人は、目先の損得で何をやらかすか、予測がつかないから厄介だ。発掘・復元の方針などもこうなると、どこまで信用できるかわからない*8

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図3 左:シュリーマン/右:エヴァンズ*9

 トロイア(これもエーゲ文明の遺跡)を発掘したシュリーマンが天性の詐欺師だったことは*10、いまではかなり知られてるが、エヴァンズもどうやら大差ない。闇の深すぎる2人に発掘された(半ば荒らされた)ことは、エーゲ文明の遺跡たちには不幸だった。多少発見が遅れても、もう少しましな発掘者に当たるまで、地下で守られてた方がよかったかもしれない。

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図4 クノッソスのフレスコ画*11

 クノッソス宮殿には多くの壁画(フレスコ画)があって、その美術的価値は高い。フレスコ画は劣化に強いから、鮮やかな色彩をよくとどめている(図4)。が、これらはすでにイラクリオン考古学博物館へ移されて、クノッソスにあるのはレプリカだ。この点も、クノッソス遺跡をいまひとつ評価しにくい理由である。

ペトラ(ヨルダン) 

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画像URL
謎度: ☆
びっくり度: ☆☆☆☆☆
古さ: ☆☆☆
知名度: ☆☆☆☆

 紀元前4世紀ごろから、ナバテア王国の首都として栄えた。首都という割に、隠れ里みたいになってるのが1つの特徴だ。
 砂漠の真ん中に岩山があって、東側に細い裂け目がある。その天然の通路を1.2キロほど進むと、いきなり正面に、壮麗な遺跡が見えてくる(図5)。あざといまでの視覚効果であり、「インディ・ジョーンズ/最後の聖戦」で、ロケ地になったのもうなずける。

f:id:calbalacrab:20181009195939j:plain図5 通路の先に…*12

 ペトラ一帯にはほとんど雨が降らないから、普通なら街など造れない。そこでナバテア人たちは、8キロも離れた「アイン=ムーサ」*13という泉(図6)から、陶管で水を引いていた*14。砂漠の中で人口2万もの都市*15を維持できたのも、この利水システムがあればこそだ。自然の岩山を利用した要塞化もうまくできてるし*16、「七不思議」の資格は充分あるようにみえる*17

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図6 アイン=ムーサ*18

 ペトラをクラスCとしたのは1つには、謎の要素があんまりないからだ。この街については、前312年ごろから多くの記録があり、わからないことはごく少ない*19。かつては、「いつ、どのように滅んだか?」が謎とされてたが、いまではだいたいけりがついている。
 西暦363年の地震など、自然災害に遭ったりもしたが、ペトラはそのたびに復興したらしい。でも7世紀以降、イスラム教が台頭してくると、ペトラはその巡礼のルートからはずれた。交易で繁栄してきたペトラにとっては大打撃で、このころからかげりが見え始める。748~9年ごろの大地震が決定打になって、人々はペトラを捨てたという*20

f:id:calbalacrab:20181009220109p:plain図7 円形劇場*21
 ローマ風である。

 赤い岩を削った建築群は美しいが、どう見ても、ギリシアやローマの影響がでかい(図7)。クラスA・Bの遺跡たちにくらべ、個性が薄いのもマイナスだ。

*1:キュクラデス文明・トロイア文明・クレタ文明・ミュケナイ文明を総称してエーゲ文明という。

*2:Knossos - Wikipedia

*3:左:http://www.westatic.com/img/dict/sknmj/76-1a.gif/中:http://www.westatic.com/img/dict/sknmj/76-3a.gif/右:http://www.westatic.com/img/dict/sknmj/76-4a.gif

*4:「ミケーネ文明」とも。

*5:http://s00.yaplakal.com/pics/pics_original/8/2/0/8819028.jpg

*6:遺跡名(「① クノッソス宮殿」とか)の下に掲げた写真のこと。

*7:三浦一郎編著『世界の大遺跡(5)エーゲとギリシアの文明』講談社 1987年 53ページ。

*8:一度発掘された遺跡については、発掘者の報告からしかわからないことが多い。発掘者が、平気で嘘を混ぜる人物だと、すべて疑わねばならなくなる。

*9:左:http://image-2.verycd.com/2ba7c66c4d327f0408ff78868e16441f40300(600x)/thumb.jpg/右:https://www.biography.com/.image/t_share/MTE4MDAzNDEwNTE3OTE5MjQ2/sir-arthur-john-evans-9289496-1-402.jpg

*10:たとえば本人は、
「8歳のときにトロイア戦争の物語を読んで、トロイア発掘を夢見るようになった」
 と自伝に書いてるが、真っ赤な嘘である。参考: 『古代への情熱』のシュリーマンは虚像だった・・・

*11:https://www.irequireart.com/i/artwork/659-image-1600-1600-fit.jpg

*12:http://img2.viajar.elperiodico.com/39/9d/3c/los-nabateos-excavaron-petra-en-territoiro-de-la-actual-jordania-hacia-el-siglo-vii-a.c.jpg

*13:Ain Musa。「モーゼの泉」という意味らしい。

*14:ペトラの不思議Part-2

*15:Petra - Wikipedia

*16:城壁で囲むとある意味で、
「この中に街がありますよ。こんな城壁を築けるくらい豊かな街ですよ」
 と、広報してるのと同じである。岩山ならそんなこともない。

*17:2007年の「新・世界七不思議」には実際に、ペトラ遺跡が入っていた。新・世界七不思議 - Wikipedia

*18:https://miriamturism.files.wordpress.com/2017/01/7-rock-of-moses-2.jpg

*19:むろん、それ自体はいいことだ。

*20:2017年10月放送の「地球ドラマチックぺトラ遺跡 砂漠に消えた古代文明の謎」(NHK教育)より。

*21:http://www.tresorsdumonde.fr/wp-content/uploads/2014/08/PETRA.png