神話とか、古代史とか。

日本をはじめあちこちの神話や古代史、古代文化について、考えたこと、わかったこと、考えたけどわからないことなど。

新版・世界の七不思議 13 - 巨石「文化」か、「文明」か

 「世界の七不思議」の選定は前回で終わってるから、ここからは補足の話である。今回は、ヨーロッパ(など)の巨石文化が、ときどき「巨石文明」とも呼ばれる件について。

f:id:calbalacrab:20180912234632j:plain図1 ストーンヘンジ*1

 このブログでは、ストーンヘンジ(図1。第2回参照)などのヨーロッパの巨石記念物(これを生み出した母胎)について、「巨石文化」という呼び方をしてきた。でも1993年4月10日の「世界ふしぎ発見」は、「ヨーロッパ巨石文明の謎」と題している。日本テレビも1981年、『巨石文明の謎』という本を出してるし、特にTVでは、「文化」より「文明」という呼び方を好む傾向があるようだ。

「文化も文明も似たようなもんでしょ、どっちでもいいじゃん」
 などと思う人もいるかもしれないが、実はこの2つはかなり明確に違う。で、ヨーロッパの巨石記念物などの場合は「文化」が正しくて、「文明」は(厳密に言うと)間違いだ。

 そもそも「文化」とは何かと言えば、
「人間の行動様式・生活様式のすべて(生理現象を除く)」
 くらいに考えておけば間違いない。たとえばしゃっくりは、それだけだとただの生理現象だから、文化じゃない。でも「この現象を何と呼ぶか」とか、「しゃっくりを止めたいとき、どうするか」といった話になると、これはもう文化そのものだ。つまり人間のいるところには、必ず文化があると思っていい。人間社会と一切関わらず、山奥で自給自足の暮らしをしていても、やっぱり服や住居をつくったり、食べ物を調理したりはするだろう。これももちろん文化であり、人間が文化をまったく営まず、生きていくことはまずできない*2

 一方「文明」はと言うと、これは文化とくらべたら、ず~っとせまい概念だ。簡単に言えば、「都市」を築くようになって初めて「文明」と呼ばれる。どんなにでかくて人口の多い集落でも、それが「漁村」や「農村」ならまだ「文明」ではない。

f:id:calbalacrab:20190308223015j:plain
図2 第一次産業とそれ以外*3

 じゃあ都市ってなんなのよ、という話だが、これもごく大雑把に言えば、
「人口の大半が、『第一次産業』に従事してない集落」
 といったところである。第一次産業と言ったら「農林水産業」だが(図2)、この場合は特に、食糧を生産する仕事――農耕・牧畜や狩猟、漁撈などが重要だ*4(パン屋さんや缶詰工場も食糧をつくってはいるが、第二次産業だから入らない)。「農家」でも「狩人」でも「漁師」でもない人々――為政者や神官、職人、商人などが人口の大半を占めれば「都市」であり、都市を営むのが「文明」だ。

f:id:calbalacrab:20190308224934j:plain図3 シュメール美術*5
 シュメールの有名な王・グデアの像。

 ちなみに世界最古の都市文明は、いまのとこメソポタミア文明*6で、だいたい紀元前4000年ごろ始まったらしい*7。人類史上初の「文明人」であるシュメール族(図3)は、系統不明の謎の民族と言われている*8。そのためトンデモ本では、ちょいちょい宇宙人にされて気の毒だ。

f:id:calbalacrab:20190308233005j:plain
図4 ハジャール=イム神殿マルタ島*9
 紀元前3600~3200年ごろの遺跡だから*10メソポタミア文明と同じくらい古い。

 ヨーロッパでも、たとえばマルタ島の巨石神殿(図4。第4回)などは、古代文明の遺跡にさほど引けをとらないように見える。日干しレンガでできたメソポタミアの建物(図5)より、むしろこっちのが立派でしょ、と思う人だっているだろう。でもマルタ島からこのころの「都市」の遺跡は出てないから、これはやっぱり巨石「文化」であって、まだ「文明」ではないのである。

f:id:calbalacrab:20190308234038j:plain
図5 メソポタミアの神殿・ジッグラト*11

f:id:calbalacrab:20190308231642j:plain
図6 三内丸山遺跡
*12

 ついでに有名な青森の三内丸山遺跡(図6)も、「縄文の都市」などと呼ばれることがある。でもこれは、しょせんウケ狙いのキャッチフレーズだ。三内丸山の住民たちは、ほとんどが木の実の採集や狩猟・漁撈で暮らしてただろうし(農耕も少しはやっただろう)、あれはどうみても都市ではない。

f:id:calbalacrab:20190308235051j:plain図7 オルドワン石器*13

 名前のついている文化としては、「オルドワン石器文化」(図7)がいまのところ一番古く、約260万年前までさかのぼる*14。まだ現生人類(ホモ=サピエンス=サピエンス)が生まれる前であり、人類は原人、または猿人の段階で、文化と呼べるものをすでにもっていた。一方文明の歴史は、せいぜい6000年前くらいまでしかさかのぼれない(文化の歴史とくらべたら、400分の1以下)。文化と文明は似てるようで、全然違うものなのである。