釣手土器の話 10 - ひょっとこ顔の釣手土器
前回、曽利遺跡出土土器の人体装飾(図1左)が、「口を開けたヘビ」を頭に乗せていることに注目した。
これとほぼ同じデザインは、井荻三丁目遺跡*1(東京都杉並区)出土の釣手土器(図1右)にもある。
図1 左:曽利出土/右: 井荻三丁目出土*2
ひょっとこみたいな顔の上にあるのは、やっぱりヘビの頭である。下顎(多分)の一部が欠けているが、上に向かって口を開けてることはわかる。
面白いのは、このヘビの口の開け方が、御殿場釣手土器(図2)のヘビとよく似ていることだ。
図2 御殿場出土*3
どうも井荻釣手土器のデザインは、曽利土器や御殿場釣手土器と同じ流れを汲んでいるらしい(図3)。
図3 左から、曽利出土・井荻三丁目出土・御殿場出土*4
井荻でも曽利でも、「口を開けたヘビ」の下には異様な顔面がある。こうなると、御殿場釣手土器の背面も、やはり顔を表している可能性が高い。前回までの話で、すでに結構高かったと思うが、さらに高まるということだ。
なお、井荻釣手土器の顔面装飾は、いわゆる「目ばかりの顔」ではない。が、この時代の普通の土偶などとはまるで違う、奇怪な面相にはちがいない。「ヘビをいただく顔面」は、少なくとも、何か特異な状態にある女性を表しているのだろう。
またこの釣手土器には、もう一つ変わったところがある。顔面把手の顔が、「窓が複数ある側」を向いている点だ。
曽利遺跡や御殿場遺跡の顔面把手付釣手土器は、窓が1つしかない方に顔を向けていた(第3回参照)。だからこそ、窓が1つの側を「表」(正面)、その反対側を「裏」(背面)と呼んできたわけだ。
井荻釣手土器はこれらとは逆に、窓が複数ある方が「表」、1つしかない方が「裏」になっているのだろう。この手の釣手土器についてはまた、後でとり上げることになると思う。