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釣手土器の話 1 - 文様を読んでみる

 「吊手土器の象徴性」(「はじめに」を参照)は簡単に言えば、縄文土器の文様の意味を解読しようという試みだ。解読と言っても、暗号や古代文字を読むわけではないから、実はそれほど難しくない。たとえばの話、月見松遺跡(長野県伊那市)から出た「顔面把手付土器」(図1)について考えてみよう。

f:id:calbalacrab:20170123014907j:plain図1 月見松出土*1

  この土器を上から見ると、顔面把手の反対側、縁のところに変わった模様がある(図2。赤線で囲んだ部分)。

f:id:calbalacrab:20170123111351j:plain図2*2

 つぶれたホームベースと言うか、一見ビキニパンツのような形である。これは何を表しているのだろう?

 もちろんこれだけを100年眺めていても、この図形の意味はさっぱりわからない。が、図3の土偶(長野県茅野市、棚畑遺跡出土)と比較してみれば、割と簡単に答が出る。

f:id:calbalacrab:20170123111520p:plain図3 棚畑出土*3

  「縄文のビーナス」として有名な土偶であり、見憶えある方も多かろう。この土偶の股間の文様と、例の図形を比較してみよう(図4)。

f:id:calbalacrab:20170123114913j:plain図4

 形はもちろん、全体を浅く彫りくぼめたような表現もほぼ同じであり、偶然似たものではなさそうだ。これらは同じ流れを汲むデザインなのだろう。ところで棚畑土偶の方は位置的に、陰毛を表すものとしか思えない。

 こうなると、月見松土器の方の文様も、やはり陰毛の表現なのだろう。つまりこの土器は全体として、女性(女神?)の体を表しているらしい。もっと言えば、月見松土器の内部の空間は、多分女性の腹の中だ。

 この方法を使えば、かなり抽象的な土器の文様も、解読できる場合がある。要するに、
「ほぼ同時代・同地域の遺物の中から、その文様のオリジナルに近い、より具体的な(意味のわかりやすい)文様」
 を見つければいいということだ。非常に簡単なやり方で、何も難しいところはない。

 「吊手土器の象徴性」ではこの方法で、主に釣手土器の文様を解読したわけだが、それはまた後日。

 

八ケ岳縄文世界再現 (とんぼの本)

八ケ岳縄文世界再現 (とんぼの本)

 

*1:『八ケ岳縄文世界再現』新潮社 1988年より。 

*2:同上。

*3:http://news.walkerplus.com/article/49650/267332_615.jpg