釣手土器の話 16 - ところであなたは死んでますか?
釣手土器の裏側(窓が複数ある方)は、多くの場合顔になっている。それはいいとして、なぜこんな変わった顔なのか?
図1 左:大深山出土/右:御所前出土*1
釣手土器背面のデザインとして、一番多いのはいわゆる「目ばかりの顔」だ(似たようなものは、顔面把手の裏側にもときどき現れる)(図1)。ときにはひょっとこのような顔だったり、双面だったりすることもある(図2)。
図2 左:井荻三丁目出土/右:穴場出土*2
なんにせよ、この時代の普通の土偶や顔面把手(表側。図3)とは、見るからに違うデザインだ。
図3 左:棚畑出土/右:海戸出土*3
この事実は、
「釣手土器の裏側は、死んであの世の支配者になった女神(のちのイザナミ)の顔を表す」
という田中基氏の仮説(第3回参照)にとって有利である。
ただ、文様解読でわかるのは、「何やら異様な顔だよね」というところまでだ。そこから一歩進めて、「これがほんとに死者の顔なのか?」をたしかめようと思ったら、ちょっと(どころでなく)難しい。
釣手土器(特に顔面把手付のもの)の表側については、「火を出産する女性を表してるらしい」と、割と突っ込んだ結論を得ることができた(と、思う。第4回参照)。でもこれは、出産の様子を描いたことが丸わかりのサンプル(御所前顔面把手付土器。図4)があるからできたことだ。
図4 御所前出土*4
一方裏側については、「縄文人が、死者をどのように表したか」というたしかなサンプルがないから、文様解読という手は使えない。「死んだ女神を表す」というのは、一つの有力な解釈だが、唯一ではない。
「トランス状態で、表情が一変したシャーマンを表す」
とか、
「何かの動物に仮装した女性の姿だろう」
とか、そういう解釈も普通にアリだろう。
ただ、
「釣手土器裏側のデザインには、死後のイザナミのイメージに近いものがある」
というところまではなんとか言えそうだ。ここからは、そのあたりの話で細々と、しめやかにつないでいくことにしよう。