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新版・世界の七不思議 16 - モアイが巨大化した理由

 「① モアイは最初からでかかったのか?」「② そもそもモアイは、なぜ巨大化した?」「③ 戦争はあったの、なかったの?」のうち、①の話は前回で終わった。今回は②、モアイが巨大化した理由について考えてみよう。

 前回の内容を踏まえて、まず1つ考えられるのは、「盗難防止のために、大きくした」という可能性だ。イースター島には、よその村のモアイを盗んでくるという風習があったらしい。そこで盗まれないように、なるべく大きいのを造るようになってもおかしくない。実際、前回とり上げた南九州の「タノカンサァ」(図1)も、同じ理由で大きく造られる場合があったと言われている*1

f:id:calbalacrab:20190613211519j:plain図1 タノカンサァ*2

 でもそれだけの理由なら、何もここまで大きくする必要はないという気がする。モアイはごく標準的なものでも4メートルくらいはあって、重さはだいたい12.5トン。特にでかいのになると約10メートル、82トンというのもあるそうだ*3(図2)。盗難を防ぐだけなら2、3メートルもあれば、お釣りがくるのではなかろうか? 動かすだけでも大騒ぎだろうし、夜中にこっそりというわけにはいかなくなる。

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図2 モアイ=パロ*4
 アフに立っていた中では、最大のモアイ。残念ながら倒れている。

 これはやっぱりどちらかと言えば、
「村同士(氏族同士)の競争意識のせいで、でかくなった」
 という線の方がありそうだ。イースター島には多くの村があり、村同士(特にそのリーダー同士)は、ライバル関係にあったらしい。モアイより少し時代は下るが*5、「鳥人儀礼」と呼ばれるお祭も、村対抗で競い合う運動会みたいなものだった*6。こういう環境では、「あっちの村では2メートルのモアイを立てたらしいぞ」「何!? ではうちは3メートルだ!」という感じで、どんどんでかくなってもおかしくない。

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図3 「鳥人」の岩絵*7

f:id:calbalacrab:20190617150253j:plain図4 モアイ背面の鳥人*8

 そもそも有力者というのは洋の東西を問わず、「自分の偉大さを目に見える形で記念したい」という気持ちになりがちなものらしい。日本の古墳にしても、そのためにでっかく造られたんだろう。インド東部から東南アジアに多い巨石を立てるお祭にも、似たような心理がみてとれる。わかりやすい例として、インド・ナガランド州の祭をとり上げてみよう。

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図5 ナガランドの巨石記念物*9

 このあたりの政治は「長老」による合議制で、長老になりたい男は少なくとも4回、多くの人々を招いて大盤振る舞いをしなくてはならない。その4回目の宴会では、参加した男たちが力を合わせ、巨石を立てて記念にする*10。大勢の人を招待すれば、それだけ大きな石を立てることができるわけだから、石がでかければでかいほど、宴会を主催した人の「気前の良さ」の証拠になる。しかも石だから、その証拠は永遠に残るというわけだ。
 もちろんただの巨石だし、のちに伝承が途絶えれば、どこの誰を記念したものかは不明になる。文字があれば、有力者をほめたたえる碑文を彫るという手もあり(図6)、その方が効果的だろう(読める人が少ないという問題はあるが)。でも文字がない社会では、「石の大きさ」という物理的な事実により、自分の功績を記念するしかないのである。

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図6 ベヒストゥン碑文(イラン)*11
 アケメネス朝ペルシアの王・ダレイオス1世の戦勝を記念した碑文。「余はダーラヤワウ(ダレイオス)、偉大なる王、諸王の王……」とかなんとか書いてある*12

 モアイがでかくなったのも、これと似たような理由だったのではないか? 「俺は隣の村のリーダーより偉いのだ!」ということを見せつけるには、ライバルよりでっかいモアイを造ればいい。巨大なモアイを運んで立てるには、それだけ多くの人が参加してくれないと無理だ。もちろんただでは働かないだろうし、ナガランドの場合と同じように、大盤振る舞いが必要だったろう*13。モアイの巨大さが、そのままリーダーの「人気」とか、「気前の良さ」の証になるわけだ*14

 ただこの場合、「ほかの島のティキ像は、なぜモアイのように巨大化しなかったのか?」という問題が残る。南太平洋のほかの島々にも、氏族間の競争はあっただろうし、ティキ像を造る風習もある。その中で、イースター島のモアイだけが野放図に巨大化したのは不思議である。

 いろんな偶然が積み重なった結果だと思うが、イースター島が絶海の孤島で、ほかの島との交流がほとんどなかったらしいことも*15、理由の1つではありそうだ。不毛な(多分)競争が過熱した場合、これを冷ますには「外部の目」が、1つのきっかけになることが多い。「よその島じゃ、こんなことしてないらしいぜ?」と誰かが言い出せば、多少頭に血が上っていても、ふと冷静になったりするものだ。
 でもイースター島にはよそ者が滅多に現れないし、当然情報の行き来もない。島の中が世界のすべてだと、「さすがにこのモアイ、でかすぎない?」「ここまでやっても、意味なくない?」などと、われに返る機会が少なくなる。リーダー同士の意地の張り合いを止めるには、「もうええわ」という第三者のツッコミが効果的であり、それがまったく入らない環境ではなかなかやめられない。ある意味で、閉鎖空間の怖いとこだ。

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図7 最大のモアイ*16

f:id:calbalacrab:20190618150345j:plain図8 細長いモアイ*17
 これもでかい。20メートル以上。

 でもやはり、イースター島の有力者たちも、どこかでわれに返りはしたらしい。17世紀ごろからモアイは造られなくなり、ラノ=ララクにあるモアイたちも、アフへ運ばれることなく放置された。「エル=ヒガンテ」(巨人)と呼ばれる最大級のモアイ(図7。全長21メートル)も、造りかけのままだ。
 モアイのでかさを競い続けることに、さすがに無理を感じたのだろうか。それとも誰かがリーダーたちに、「もうええわ!」と言ってのけたのか? いまとなっては知りようもないが、やはり気になって仕方ない。

*1:http://www.e-kanoya.net/koho/2017/no273/10_11p.pdf

*2:https://scontent-lga3-1.cdninstagram.com/vp/c6eef9d3e6db3ae13283971e445b5c9d/5D8F790E/t51.2885-15/e35/52034001_606313569795153_496966509177891620_n.jpg?_nc_ht=scontent-lga3-1.cdninstagram.com

*3:Moai - Wikipedia

*4:左: https://jetsettingfools.com/wp-content/uploads/2014/06/IMG_1064-1024x683.jpg/右: http://4.bp.blogspot.com/_sD9yQTE5QZQ/TDBxiX7A1UI/AAAAAAAAIfs/Rw2hoOf3UjY/s1600/MOAI+PARO.jpg

*5:最後のモアイ(その1つ)とみられる「ホア=ハカナナイア Hoa Hakananai'a」の背中には、鳥人が彫刻されている(図4)。モアイの時代と鳥人信仰の時代は、ある程度かぶっていたらしい。

*6:鳥人 - Wikipedia

*7:http://4.bp.blogspot.com/-xa9zB5FwQi4/T67CZCnnjOI/AAAAAAAAi2I/oC23tlWdgKg/s1600/DSC0434620120512150305.gif

*8:https://imaginaisladepascua.com/wp-content/uploads/2016/07/moai-hoa-hakananaia-el-amigo-robado-grabados-unicos-fb.jpg

*9:http://www.gshdl.uni-kiel.de/wp-content/uploads/2016/06/2016_Nagaland.jpg

*10:森田勇造『写真で見るアジアの少数民族(3)南アジア編』三和書籍 2012年 6~10ページ。

*11:https://www.awesomestories.com/images/user/570c333a59.jpg

*12:ベヒストゥン碑文 - Wikipedia

*13:このあたり、サービス残業とかしてしまう現代人よりも、昔の人の方が合理的だ。

*14:「気前の良さ」を非常に重視する考え方は、北アメリカ大陸北西海岸の「ポトラッチ」という祭にもみてとれる。

*15:ASIOS『謎解き 超常現象(4)』彩図社 2015年 248ページ。

*16:http://www.peterhakenjos.de/Wege-Imagenes/23-Rano-Raraku9-groesster.jpg

*17:https://populerakim.com/wp-content/uploads/2017/06/Dunyanin-En-Gizemli-Adasi-Paskalya-5-e1497093224120.jpg