釣手土器の話 13 - 穴場遺跡の釣手土器
この2回ほど脱線したが、ここで釣手土器背面の話に戻ろう。
第6~10回で、釣手土器の背面が(多くの場合)顔なんだろうな、と思わせる状況証拠をいくつか挙げてきた。自分的にダメ押しと言うか、とっておきの証拠として推したいのは、穴場遺跡(長野県諏訪市)から出た釣手土器だ(図1)。
図1 穴場出土*1
左右の丸い把手は復元されたものだが、それ以外はほぼ完全な形で出土した。ちなみにこれ、数ある縄文土器の中でも、最も完成度が高いものの一つだと思う。諏訪市の有形文化財に指定されてるが、これが重要文化財や、国宝でないのは納得がいかない。
諏訪市博物館に展示されてるので、機会があればぜひ見学をおすすめしたい。筒状のケースに入っていて、全方位から観察できるのも嬉しい。
さてこの釣手土器を、御所前顔面把手背面の「顔」と比較してみよう(図2)。
図2 左:御所前出土/右:穴場出土*2
ここでは特に「両目」の間から、「眉間」にかけての模様に注目だ。
「2つの円にはさまれたひし形の模様が2つの三角形に連なり、さらにその三角形が2つの円を支える」
という文様構成が激似である。御所前顔面把手の裏が「目ばかりの顔」なら、穴場釣手土器の背面も顔であることは、まず間違いないところだろう。顔面把手裏側の顔は、たしかに釣手土器背面に受け継がれていたということだ。
また、図3を見ればおわかりの通り、「両目」の間をはい上がっているのはなにかの生き物だ。ちょっと変わった造形だが、多分ヘビだろうと考えられている*3。
図3 穴場出土*4
つまり穴場釣手土器背面の顔も、第7回や9~10回でさんざんとり上げた、「頭上にヘビをいただく顔面」だ。ヘビの胴体をこのように、ひし形の連続(図4参照)で表した例は珍しいが、他に類例がないでもない。たとえば長野県茅野市、尖石遺跡出土の「蛇身装飾付土器」(図5)を見ていただきたい。首の部分(頭の近く)に、3段のひし形があることがわかる。
図4*5
図5 尖石出土*6
「2つの丸窓の間をヘビがはい上がる」という穴場釣手土器のデザインは、多くの釣手土器(その背面)と共通する。穴場例の裏が顔面なら、ほかもだいたい同じだろう。釣手土器の裏側に、2つの窓がいい感じに並び、しかもその間をヘビらしきものがはっていれば、もうそれは「目ばかりの顔」である。少なくとも、その可能性が高いとみて問題なさそうだ。
第6回から8回にわたり、(一部脱線もありつつ)お送りしてきた「釣手土器背面は顔なのか?」問題だが、今回で一応解決ということにしたい。
ところで穴場釣手土器には、1つ珍しい特徴がある。目を表すはずの丸窓が、なぜか4つもあるということだ。つまりどうやらこの土器は、背面に2つの顔が並んでいるらしい。これはなにも穴場釣手土器だけでなく、ほかにもいくつか例があるのだが、それについては次回かその次か、とにかく後で書くことにしよう。