神話とか、古代史とか。

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アーサーの呪い

 その昔、『アーサー王の死』という本を読んだことがある。トマス=マロリーが15世紀に書いた本で、数ある「アーサー王伝説まとめ本」の中でも、集大成と言われてるらしい。

 でもこの『アーサー王』というタイトルは、もうちょっとどうにかならなかったものか? これからアーサー王の生涯についての物語を読もうというときに、いきなり「死」とか言われたらテンションが下がる。

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図1 歴代アニメのアーサーたち*1
※左から、『燃えろアーサー』(1979~80年)/『Fate』シリーズ(2006年~)/『七つの大罪』(2014年~)。1人性別違うが、気にしなくてよい。

 それはともかく、そもそもアーサーとは何者か? さしあたり、次の3点だけ押さえとけば万全だと思う。

1. 伝説的なイギリスと言うか、ブリテン島の王。実在したとしたら、5世紀後半~6世紀前半あたりの人。実在したかどうかの議論には、まだ決着がついていない。

2. 西暦500年ごろ、ベイドン山の戦いでブリトン族(ケルト系)が勝ち、新興のアングロ=サクソン族(ゲルマン系)の勢力拡張に待ったをかけたことは事実らしい。このときブリトン族を率いてたのが、アーサーだったと言われている。
 ちなみに『ブリトン人の歴史』(9世紀)によると、アーサーは「軍の指導者」で、王ではない。統治者と言うより、武人だったのかもしれない*2

3. でもこの勝利は一時的なもので、その後のブリテン島はほぼ、ゲルマン系のアングロ=サクソンやノルマン族の天下になる。アーサーが実在したのなら、草葉の陰で嘆いているだろう。

 さて。この『アーサー王の死』によれば、アーサーの墓には次のように書いてあるそうだ。

アーサーここに眠る。かつての、そして未来の王。*3

 なんで「未来の王」なのかと言えば、アーサーはアヴァロン島(伝説の理想郷)その他で眠っており、いつの日か帰還するとも言われているからだ。この物語には、
「後から来てでかい顔してるアングロ=サクソンやらノルマンやらに、ぎゃふんと言わせてやりたい」
 というケルト系イギリス人たちの願いがこめられてるのだろう。

 でもこの話、ちょっと気になるところがある。
「イギリス王家に『アーサー』という名の男子がいて、これが王位についたらどうなるのか?」
 ということだ。

 「アーサーが、再びイギリスの王になる」という予言はそれで、一応果たされた形になる。が、伝説のアーサーその人を待ってる人々にとってはまがい物であり、怒りを買うことになりそうだ。

 実際に調べてみたところ、歴代のイギリス王の中に、(伝説のアーサー王を別とすれば)アーサーをファーストネームとする者はいない*4。でも歴史上、少なくとも2度、「アーサー」がイギリス国王になりかけたことはあるのである。前置きが長くなったけど、実はここからが本題だ。

 1人目のアーサーは、「アーサー=オブ=ブリタニー」(「アルテュール1世」とも。1187年3月29日~1203年)。正式に立太子されたことはないが、伯父であるリチャード1世の事実上の後継者と目されていた。リチャードの死後、ジョン王(叔父)と対立し、暗殺されたと言われている。享年は15か、16歳。

 2人目は「アーサー=テューダー」(1486年9月20日~1502年4月2日)で、こっちは正式に王太子プリンス・オブ・ウェールズ)になっている。でも国王になることはなく、15歳で死んだ。別に殺されたとかじゃなく、風邪をこじらせて死んだらしい。

 もちろん偶然ではあるが、イギリス国王になるはずだった2人の「アーサー」が2人とも、十代半ばで死んでるのは、因縁めいた話である。私はこれを、勝手に「アーサーの呪い」と呼んでいる。

*1:左:https://vmimg.vm-movie.jp/image/android/480x360/048/s048172001a.jpg/中:https://littlecloudcuriosity.files.wordpress.com/2015/06/fate-stay-night-unlimited-blade-works-episode-23-3.jpg/右:http://livedoor.4.blogimg.jp/anico_bin/imgs/3/6/36282c97-s.jpg

*2:ピーター=ジェイムズほか『古代文明の謎はどこまで解けたか(2)』太田出版 2004年 268ページ。

*3:T・マロリー『アーサー王の死』筑摩書房 1986年 438ページ。訳文はちょっと変えた。

*4:ミドルネームなら例があるようだ。参考:そもそもアーサーてどこのだれなんだよ : 散種的読書架