スサノヲとナマハゲ 3 - 植物のお化け
前回に続き、スサノヲと「植物仮装来訪神」の話である。ここで一応、植物仮装来訪神なるものを定義しておくと、
「植物(主に葉と茎の部分)で、体の大半を覆った来訪神」
ということになる。
図1 ボゼ*1
たとえば日本では、悪石島(鹿児島県)のボゼ(図1)のほか、秋田のナマハゲもその1つである。国外にも多くの例があり、スイスの「醜いクロイセ」(図2)やラオス(東南アジア)の「プー=ニュー」と「ニャー=ニュー」(図3)、中国の「マンガオ」(図4)などがそれだ。太平洋の島々では、ニューブリテン島(メラネシア)の「ドゥク=ドゥク」(図5)その他が知られている*2。世界中どこにでもある、というほどではないが、結構あちこちにあるのである。
ちなみに図1のボゼはいつ見ても、インドネシアとか、そのあたりの神にしか見えない。これが鹿児島の祭なんだから、世界は裏切りに満ちている(←?)。
図2 醜いクロイセ(スイス)*3
図3 プー=ニュー(左)とニャー=ニュー(右)(ラオス)*4
※ 衣裳は木の繊維。
図4 マンガオ(中国)*5
ところでこの人たちはなぜ、植物のお化けみたいなナリをしてるのか? これについてはシンプルに、「植物の精霊的なものを表してるから」という理解でいいらしい。
シャープやブットマンドル、「醜いクロイセ」が麦藁に身を包むのは、それらが穀物霊であることを物語っています。
(葛野浩昭『サンタクロースの大旅行』岩波書店 1998年 49~50ページ)※ ちなみに「シャープ」は、シャーブのことだろう。シャーブやブットマンドルについては、前回参照。
麦藁で身を包み、鞭を打ち鳴らすシャーブ。麦藁には穀物霊が宿ると信じられてきた。
(谷口幸男ほか『図説ヨーロッパの祭り』河出書房新社 1998年 21ページ)
どっちも「穀物霊」とあるが、たとえばメラネシアに穀物栽培はない。ドゥク=ドゥク(図5)をのけ者にするのもアレなので、より広く、「植物霊」でいいと思う。多分原始的な農耕文化とともに、広まったんじゃないかと踏んでるが、話がでかくなるからやめとこう。
ちなみにナマハゲが着てる蓑は、「その年に収穫した稲の藁」でつくられるものだったらしい*7。なんの気なしにあの格好をしてるわけじゃなく、特別な意味がこめられていたことがわかる。
さて。世界の植物仮装来訪神たちには、「来訪神であること」「植物で仮装すること」以外にも、3つほど共通点がある。
1. 「祖霊」、または「死霊」とみなされている。
2. 子供に対して教育的(むしろ、脅迫的?)な機能をもつ。
3. 秘密結社、または男子結社を構成する。
次回以降、順を追ってみていくことにしよう。
*1:http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/63/43/7f85e110b67470963a409e1219e0cfab.jpg
*2:アルファベットだと、クロイセはChläuse。プー=ニュー・ニャー=ニューはPu Gneu/Gna Gneu(またはYa Gneu)と書く人が多いが、一定していない。ドゥク=ドゥクはDuk Duk。マンガオは漢字で、「芒哥」と書く。
*3:https://1.bp.blogspot.com/-lYQd4IhifvU/Upbp0JtKfmI/AAAAAAAACjg/eXobX-Kn5lM/s1600/silvesterchlaeuse.jpg
*4:https://meslaos.files.wordpress.com/2015/04/pimaypuyeu.jpg
*5:http://img.chinatimes.com/newsphoto/2016-02-26/656/20160226004308.jpg
*6:https://c1.staticflickr.com/5/4026/4245368961_4cd0be807f_b.jpg