神話とか、古代史とか。

日本をはじめあちこちの神話や古代史、古代文化について、考えたこと、わかったこと、考えたけどわからないことなど。

スサノヲとナマハゲ 3 - 植物のお化け

 前回に続き、スサノヲと「植物仮装来訪神」の話である。ここで一応、植物仮装来訪神なるものを定義しておくと、
植物(主に葉と茎の部分)で、体の大半を覆った来訪神
 ということになる。

f:id:calbalacrab:20180120105504j:plain図1 ボゼ*1

 たとえば日本では、悪石島(鹿児島県)のボゼ(図1)のほか、秋田のナマハゲもその1つである。国外にも多くの例があり、スイスの「醜いクロイセ」(図2)やラオス(東南アジア)の「プー=ニュー」と「ニャー=ニュー」(図3)、中国の「マンガオ」(図4)などがそれだ。太平洋の島々では、ニューブリテン島メラネシア)の「ドゥク=ドゥク」(図5)その他が知られている*2。世界中どこにでもある、というほどではないが、結構あちこちにあるのである。

 ちなみに図1のボゼはいつ見ても、インドネシアとか、そのあたりの神にしか見えない。これが鹿児島の祭なんだから、世界は裏切りに満ちている(←?)。

f:id:calbalacrab:20180112220424j:plain
図2 醜いクロイセ(スイス)*3

f:id:calbalacrab:20180112222039j:plain
図3 プー=ニュー(左)とニャー=ニュー(右)ラオス*4
 衣裳は木の繊維。

f:id:calbalacrab:20180113200015j:plain図4 マンガオ(中国)*5

f:id:calbalacrab:20180113200743j:plain
図5 ドゥク=ドゥクメラネシア*6

 ところでこの人たちはなぜ、植物のお化けみたいなナリをしてるのか? これについてはシンプルに、「植物の精霊的なものを表してるから」という理解でいいらしい。

 シャープやブットマンドル、「醜いクロイセ」が麦藁に身を包むのは、それらが穀物霊であることを物語っています。
(葛野浩昭『サンタクロースの大旅行』岩波書店 1998年 49~50ページ)

 ちなみに「シャー」は、シャーのことだろう。シャーブやブットマンドルについては、前回参照。

 麦藁で身を包み、鞭を打ち鳴らすシャーブ。麦藁には穀物霊が宿ると信じられてきた。
(谷口幸男ほか『図説ヨーロッパの祭り』河出書房新社 1998年 21ページ)

  どっちも「穀物霊」とあるが、たとえばメラネシア穀物栽培はない。ドゥク=ドゥク(図5)をのけ者にするのもアレなので、より広く、「植物霊」でいいと思う。多分原始的な農耕文化とともに、広まったんじゃないかと踏んでるが、話がでかくなるからやめとこう。

 ちなみにナマハゲが着てる蓑は、「その年に収穫した稲の藁」でつくられるものだったらしい*7。なんの気なしにあの格好をしてるわけじゃなく、特別な意味がこめられていたことがわかる。

 さて。世界の植物仮装来訪神たちには、「来訪神であること」「植物で仮装すること」以外にも、3つほど共通点がある。

1. 「祖霊」、または「死霊」とみなされている。
2. 子供に対して教育的(むしろ、脅迫的?)な機能をもつ。
3. 秘密結社、または男子結社を構成する。

 次回以降、順を追ってみていくことにしよう。

*1:http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/63/43/7f85e110b67470963a409e1219e0cfab.jpg

*2:アルファベットだと、クロイセはChläuse。プー=ニュー・ニャー=ニューはPu Gneu/Gna Gneu(またはYa Gneu)と書く人が多いが、一定していない。ドゥク=ドゥクはDuk Duk。マンガオは漢字で、「芒哥」と書く。

*3:https://1.bp.blogspot.com/-lYQd4IhifvU/Upbp0JtKfmI/AAAAAAAACjg/eXobX-Kn5lM/s1600/silvesterchlaeuse.jpg

*4:https://meslaos.files.wordpress.com/2015/04/pimaypuyeu.jpg

*5:http://img.chinatimes.com/newsphoto/2016-02-26/656/20160226004308.jpg

*6:https://c1.staticflickr.com/5/4026/4245368961_4cd0be807f_b.jpg

*7:葛野浩昭『サンタクロースの大旅行』岩波書店 1998年 50ページ。