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スサノヲとナマハゲ 16 - ほかにはこんな来訪神

 スサノヲと植物仮装来訪神についてはあらかた語り終えたので、多分次あたりで終わりである。日本をはじめ、あちこちの仮面・仮装来訪神たちに登場願ったが、もちろんこれで全部ということはない。せっかくだから、ここまでにとり上げきれなかった来訪神たちをいくつか紹介しておこう。 

f:id:calbalacrab:20180812105726j:plain図1 米川の水かぶり*1

 図1は宮城県登米市の来訪神で、「米川の水かぶり」という祭に登場する。2月の初午の日、藁をかぶった男たちが、民家に水をぶっかけて回る行事である。こう書くとただの迷惑行為だが、火災を防ぐまじないだそうだ。

 植物仮装来訪神と言えば、普通はコメとかを豊作にする人らであり、火の用心とは関係なさそうにみえる。多分この場合、福岡県の「トビトビ」(図2。第7回)と同じく、雨の神としての性格がクローズアップされているのだろう。

f:id:calbalacrab:20180310233658j:plain図2 トビトビ*2

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図3 山形のカセ鳥*3

 山形県上山市の「カセ鳥」(図3)もやはり火伏せの神で、見た目も図1によく似ている。でもこっちは、逆に周りから水をかけられるそうで*4、この点トビトビと同じである。

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図4 佐賀のカセドリ*5

 カセ鳥と言えば面白いのは、佐賀県(九州)にも「カセドリ」(図4)という来訪神行事があることだ。こっちは火伏せとは関係なくて、竹で床を叩いて厄払いをする神だという。

 なんにせよ、遠く離れた東北地方と九州に、同名かつ似たような姿の来訪神がいるのは不思議である。昔はもっと全国区の行事だったのが、南北に残ったということだろうか?

 ちなみにカセドリの「ドリ(トリ)」は、そのまんま鳥のことである。特に佐賀県のカセドリは、雌雄のニワトリだと言われている*6。図3・4を見る限り、あまり鳥っぽいとも思えないが、この手の仮装を鳥に見立てることには、結構な歴史があるらしい。『古事記』や『日本書紀』に登場する「椎根津彦(シヒネツヒコ)」の物語からそれがわかる。

 『日本書紀』によるとシヒネツヒコは、あるとき敵の目をあざむくため、蓑笠を着て老人になりすました*7。蓑と笠で仮装するあたり、佐賀のカセドリや、石垣島の「マユンガナシ」(図5。第13回)によく似ている。でもこのシヒネツヒコ、『古事記』ではなぜか「羽ばたきながら」現れたそうで*8、鳥っぽいところもあるのである。

f:id:calbalacrab:20180401210607j:plain図5 マユンガナシ*9

 思うにシヒネツヒコの物語は、
「蓑と笠で仮装して、その姿を鳥に見立てる」
 という風習をもつ人々が、語り継いだものではなかろうか。この仮装はもちろん第一には、植物を表してると思う(第3回)。でも同時に、鳥でもあるという考え方も、古くからあったものらしい。 

f:id:calbalacrab:20180812111404j:plain図6 シャーブ*10

 ところで米川の水かぶり(図1)や山形のカセドリ(図3)は、オーストリアシャーブ(図6。第24回など)によく似ている。植物仮装の来訪神はどこでもある程度似てるけど、これはその中でもそっくりだ。
 ヨーロッパでは、シャーブのような来訪神たちは一般に、「麦藁熊」と呼ばれているらしい(あまり熊っぽく見えないが)。図7はドイツ(ヘッセン州、ヘルドラ)の「シュトローベーア」、図8はイギリス(ケンブリッジシャー、ウィットルジー)の「ストローベア」である*11

f:id:calbalacrab:20180812112946j:plain図7 シュトローベーア*12

f:id:calbalacrab:20180812113116j:plain図8 ストローベア*13

 特に図8は、日本の来訪神行事に飛び入りで混ざっても違和感なさそうだ。われながらよくわからない心理だが、遠く離れた土地同士に似たような祭や物語があると、意味もなく嬉しくなったりする。