スサノヲとナマハゲ 4 - 死者たちの帰還
世界の「植物仮装来訪神」には、
1. 「祖霊」、または「死霊」とみなされている。
2. 子供に対して教育的(むしろ、脅迫的?)な機能をもつ。
3. 秘密結社、または男子結社を構成する。
という共通点があると、前回で書いた。ここからしばらく、これらの特徴を順番に検討していこう。
まず1. だが、こういう問題については基本、現地で取材した人の話を聞くしかない。というわけで文献から、関連するくだりをいくつか引用しおこう。重要なとこは太字にしたので、そこだけでも目を通してもらえると助かる。
ついでに言えば民俗学では、祖霊と死霊は一応、区別される。まだ生前の個性を引きずったままの霊魂は「死霊」。これを失って、祖先たちと一体化した普遍的な死者が「祖霊」である*1。もちろんそれほど厳密には、区別できない場合もある。
アカマタ・クロマタ(図1。沖縄県八重山列島):
――アカマタ・クロマタには、二つの由来の伝説がある。一つは、毎年定まった日に姿を現した死者を祭ったという伝説、もう一つは、安南に漂着した人がその面を故郷へ稲穂とともに持ち帰ったという渡来の伝説である。
(『日本「鬼」総覧』新人物往来社 1995年 186ページ)
図2 マンガオ*3
マンガオ(図2。中国):
――マンガオとは何だったのだろうか。ミャオ語でマンはいちばん古い、最も古い、カオは次に古いという意味で、合わせて古い、さらに古い意となる。吉曼では、古い古い祖先を表すといい、一つの家族の形に構成するとの決まりがある。
(萩原秀三郎『稲と鳥と太陽の道』大修館書店 1996年 228~229ページ)
図3 プー=ニュー(左)とニャー=ニュー(右)*4
プー=ニュー/ニャー=ニュー(図3。ラオス):
――同時に、彼らは「偉大な祖先」として尊敬され、「両親みたいなもの」といわれ、また「昔からの人たちのかたまり」「住みついていた人たちのあらわれたもの」のように集合的祖先霊のように解釈する人もいる。
(松原孝俊ほか編『比較神話学の展望』青土社 1995年 166ページ)
図4 ドゥク=ドゥク*5
ドゥク=ドゥク(図4。メラネシア):
――サンタ・クルツ島では、亡魂の事をdukaといい、フロリダ島では死者の霊魂と霊交することをpaludukaというから、Duk-dukはまた亡魂(Ghostos)の意味である。
(大林太良編『岡正雄論文集 異人その他』岩波書店 1994年 110ページ)
図5 シャーブ*6
シャーブ(図5。オーストリア):
――シャープ*7は「私たちの先祖の姿をあらわしたものですよ」と、教えてくれた人がいた。
(芳賀日出男『ヨーロッパ古層の異人たち』東京書籍株式会社 2003年 74ページ)
もうこれくらいでいいだろう。こうしてみると世界には、
「祖先たちは植物の精霊みたいなもんでしたが、何か?」
的な信仰がちょいちょいあるらしい。
「子供に対する教育的(脅迫的)機能」についても書こうと思ってたが、長くなったから次にしよう。
*1:萩原龍夫「祖霊」(大塚民俗学会編『日本民俗事典』弘文堂 1994年 405ページ)参照。
*2:ただしこれは、シロマタという第3の神。http://husigimystery.info/allan/wp-content/uploads/2017/05/akakuro.jpg
*3:http://img.chinatimes.com/newsphoto/2016-02-26/656/20160226004308.jpg
*4:https://meslaos.files.wordpress.com/2015/04/pimaypuyeu.jpg
*5:https://c1.staticflickr.com/5/4026/4245368961_4cd0be807f_b.jpg
*6:http://www.bad-mitterndorf.at/uploads/pics/schab.jpg
*7:アルファベットだとSchabだが、日本では「シャーブ」とも、「シャープ」とも書かれる。どっちが現地の発音に近いのかは不明。