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釣手土器の話 11 - これらも多分顔だろう

 第8回で、顔面把手の裏側が「目ばかりの顔」になってる例として、南養寺や御所前のものを挙げた。一応写真も貼っておこう(図1)。

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図1 左:南養寺出土/右:御所前出土*1

 でももちろん、裏に顔らしきものをもつ顔面把手は、この2つだけではないのである。釣手土器の話からはやや脱線するが、3つほど例を挙げておこう。それぞれ、神奈川県川崎市富士見台遺跡、東京都あきる野市二宮森腰遺跡*2、長野県岡谷市海戸遺跡からの出土品だ(図2~4)。 

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図2 富士見台出土*3

f:id:calbalacrab:20170220115842j:plain図3 二宮森腰出土*4

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図4 海戸出土*5

 これらに関しては、裏側がたしかに「顔」だという証拠があるかと言われたら、ない。でも特に、御所前顔面把手(その裏側。図1右)に近いレイアウトなので、多分顔だろうなと思っている。

 ちなみにこれらの顔面把手では、裏面中央を、細かい模様のある「ベルト」が上下に走っている。この点は、釣手土器の背面(図5参照)にもかなり近い。

f:id:calbalacrab:20170221000359j:plain図5 曽利出土*6

 釣手土器背面の「ベルト」が、多くの場合ヘビであることは、第7回で書いた。じゃ、顔面把手背面はどうなのかと言えば、やはりヘビだったらしい節がある。特に海戸遺跡のものはわかりやすい。横から見ると明らかに、ヘビ的なものがはい上がっている(図6)。

f:id:calbalacrab:20170220221525j:plain図6 海戸出土

 富士見台遺跡の顔面把手(図2)にしても、この文様は多分ヘビだろう。「綾杉文」と「交互刺突文」*7の組み合わせは、蛇身装飾によく使われるものだ(図7参照)。ちなみに図7は、榎垣外遺跡(「えのきがいと」と読む。長野県岡谷市)の顔面把手付土器の一部である。

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図7 榎垣外出土*8

 富士見台顔面把手のてっぺんに刻まれた2本の線(図8参照)も、ヘビの口を表すものとみなければ、どうにも説明つかないと思う。「目ばかりの顔の真ん中にヘビ」というデザインは、やはり顔面把手から釣手土器に受け継がれたものなのだろう。

f:id:calbalacrab:20170221144708j:plain図8 富士見台出土

*1:左:江坂輝彌ほか編『古代史発掘(3)土偶芸術と信仰』講談社 1974年より。/右:森浩一『図説日本の古代(2)木と土と石の文化』中央公論社 1989年より。

*2:二宮神社境内遺跡」とも呼ばれる。

*3:拙論「吊手土器の象徴性(上)」(大和書房『東アジアの古代文化』96号 1998年)より。

*4:中村耕作「顔面把手と釣手土器」(神奈川県考古学会『考古論叢神奈河』17集 2009年)より。

*5:左:『縄文時代展』福岡市博物館 1995年より。

*6:『井戸尻 第8集』富士見町井戸尻考古館 2006年より。

*7:「刺突」って感じでもないが。

*8:図4左と同じ。文様の説明はこっちで書き加えた。