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釣手土器の話 34 - 2つの「ホト」の釣手土器

 第32回で、「3面(裏が双面)の釣手土器」(図1)と富士の噴火には、関係があるんじゃないか、的なことを書いた。火口も女性器も、古い言葉では「ホト」という。火口=性器なら、複数の火口から火を噴く富士は、女神が増殖したように見えたかもしれないという解釈だ。

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図1 左:穴場出土/中:東吹上出土/右:岡田出土*1

 では実際、複数のホト(性器)をもつ釣手土器はあるのかと言えば、これがまた、しっかりと発見されている。以前何度かとり上げた、北原遺跡の釣手土器(図2)だ。

f:id:calbalacrab:20170926213657j:plain図2 北原出土*2

 第23回でもちらっと書いた通り、このデザインは、井荻三丁目遺跡や札沢遺跡の釣手土器(図3)の流れをくんでいる。つまり「3角形に円」のパターンだが、北原釣手土器の場合、このパターンが左右に2つ並んでるところに特徴がある。

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図3 左:井荻三丁目出土/右:札沢出土*3

 「3角形に円」(その真ん中の丸窓)が、女性器の表現だという話はすでに書いた(第23回)。普通3面釣手土器は、顔が左右に並んでいるのだが(第14回)、北原例はその性器バージョンということになる。この中にもし火をともせば、2つの「ホト」から火を噴いてるように見えるだろう。

 ほんの思いつきのような仮説だが、こうなると、ちょっと捨てがたい気もしてくる。見慣れたはずの富士山に、2つ(またはそれ以上)の火口が現れたのを見て、縄文人はびっくりしただろう。で、こんな解釈をする人もいたのではないか?

「実は富士山の女神さまは、死ぬと2人(複数)になるのだよ。わしは前から知っておった(大嘘)。」

 この場合、「死ぬと(子供を産むなり、なんなりして)増殖する女神」という観念が、のちのイザナミ神話に受け継がれてないのも一応、説明がつく。あくまでも、縄文中期の富士の姿から生まれたものなので、これを実際見ていない人々にとっては意味不明だ。富士の噴火を目撃した縄文人の間でだけ、地域限定(時代も限定)で流行したのだろう。

 3面釣手土器の解釈としてはいまのところ、これくらいしか手持ちがない。もっといい仮説を思いつくか、人に教えてもらえるまで、「複数火口に触発された説」をひとまず採用しておきたい。

*1:左:諏訪市博物館の絵はがきより。/中:『東吹上遺跡』群馬県立博物館 1973年より。/右:http://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/206871

*2:上川名昭『甲斐北原・柳田遺跡の研究』巌南堂書店 1971年より。

*3:左:江坂輝彌ほか編『古代史発掘(3)土偶芸術と信仰』講談社 1974年より。/右:『長野県立歴史館研究紀要』5号 1999年より。