神話とか、古代史とか。

日本をはじめあちこちの神話や古代史、古代文化について、考えたこと、わかったこと、考えたけどわからないことなど。

新版・世界の七不思議 6 - エル=ミラドールからネムルト=ダウ

 今回とり上げる「世界の七不思議」候補は、「⑥エル=ミラドール」(グアテマラ)と「⑦カルナック列石」(フランス)、「⑧ネムルト=ダウ」(トルコ)の3つ。クラスAの10候補に続き、クラスBの8つもこれで終了だ*1

⑥ エル=ミラドールグアテマラ) 

f:id:calbalacrab:20181006224943j:plain

画像URL
謎度: ☆☆☆☆☆
びっくり度: ☆☆☆☆
古さ: ☆☆☆
知名度: ☆

 中米古代文明メソアメリカ文明)の遺跡の中で、一番「七不思議」にふさわしいのは、第3回でとり上げたテオティワカンだろう。でもエル=ミラドール遺跡の調査がもう少し進めば、こっちの方がふさわしいという話になってくるかもしれない*2。それほど重要な遺跡である。
 エル=ミラドールは、有名なマヤ文明の遺跡だ。マヤ文明と言えば、だいたい紀元前後から栄え、10世紀ごろには衰退したと言われている。でもエル=ミラドールの最盛期は、紀元前3世紀だそうだから*3マヤ文明の中ではかなり古い。

f:id:calbalacrab:20181006231213j:plain
図1 ラ=ダンタ・ピラミッド*4

 でも不思議なことに、マヤのピラミッドの中で最大のものは、このエル=ミラドールにあったりする。図1の「ラ=ダンタ・ピラミッド」がそれで、高さ約72m。テオティワカンの太陽のピラミッド(65m。第3回参照)や、ティカルの第4神殿(図2。64.6m)を上回り、アメリカ大陸では随一だ*5。ちなみに太陽のピラミッドは、エジプトのクフ王のピラミッド(高さ146m)やカフラー王のそれ(136m)とともに、世界三大ピラミッドと言われたこともある。でもいまは、ラ=ダンタ・ピラミッドが世界第3位だ*6

f:id:calbalacrab:20181006231831j:plain
図2 ティカル第4神殿*7

 マヤ文明については、だいたい8世紀ごろがその絶頂期と言われている。でもエル=ミラドールの調査が進むにつれ、だんだんと話がおかしくなってきた。どうもマヤ文明は、前3世紀ごろにはほぼ完成された姿で、密林にどーんと現れたようなのだ。エル=ミラドールは、マヤ文明の謎を解く鍵のようでもありつつ、さらに謎を深めてくれてるようなところもある遺跡なのである*8

f:id:calbalacrab:20181006233920p:plain
図3 ティカル第1神殿*9

 それはそうと、マヤのピラミッドの中でも特にティカルのは、いくらなんでも傾斜きつすぎないか? 人間は、角度が45°を超えると断崖絶壁を登ってる感じになるらしい。でもティカル第1神殿(図3)の階段など、60°くらいはありそうで、「登ってくる奴を殺してやろう」という決意に満ちている。見る分には綺麗な遺跡だが、登るのはぜひ遠慮したい。

カルナック列石(フランス) 

f:id:calbalacrab:20181007141434j:plain

画像URL
謎度: ☆☆☆☆☆
びっくり度: ☆☆☆☆☆
古さ: ☆☆☆☆☆
知名度: ☆☆☆

 第2回でとり上げたストーンヘンジと同じく、ヨーロッパ巨石文化の遺跡だ。ストーンサークル(環状列石)の代表がイギリスのストーンヘンジなら、直線的な列石(アリニュマン*10)の代表は、このカルナック列石ということになる。紀元前4500年ごろ造られ出したというから*11、結構べらぼうに古い。
 主に「メネク」「ケルマリオ」「ケルレスカン」の3つの列石群からなる。一番長いのはメネク列石で、全長1165m、幅100m。1099個の巨石が使われ、最大の石は高さ4mもある*12。上から見ると、だいたい10列ほど並んでいるようだ(図4)。

f:id:calbalacrab:20181007152952j:plain
図4 メネク列石*13

 変わった遺跡を見ていると、人間はなんだかわかんないことを、一生懸命やるものだなぁ、の感に打たれることがある。カルナック列石はその点で、ナスカの地上絵やモアイ(ともに第2回 )と並んでトップクラスだろう。同時に、こんないかにも邪魔そうなものを残してくれた近隣住民に感謝を禁じえない。

f:id:calbalacrab:20181008194916p:plain
図5 メネク列石の模型*14

 あまり知られてないことだが、カルナック列石はその一方(または両方)の端に、ストーンサークルがあることが多い(図5)*15ストーンサークルを儀式の場とすれば、列石群はそこへ向かう参道みたいなものだったのかもしれない。「目的地(ストーンサークル)よりはるかに目立つ」という意味では、なかなか珍しい参道だ。「聖地に向かって行進すること」それ自体が、非常に大事だったということか?*16
 なお、伝説によれば列石群は、石になった兵士の群れだそうだ。

 3世紀、教皇コルネリウス(図6)が、ローマ帝国に迫害された。彼は2頭の牡牛を連れ、この地へ逃げてきた*17。ローマの兵士たちが追ってくると、コルネリウスは、牡牛の耳の中に隠れた。それでも見つかりそうになったので、兵士たちを石に変えたという*18

f:id:calbalacrab:20181008122506j:plain
図6 コルネリウス*19

 一見他愛もないおとぎ話だが、牛を神聖視する太古の風習と関係があるとも言われている*20

ネムルト=ダウ(トルコ) 

f:id:calbalacrab:20181008143104j:plain

画像URL
謎度: ☆☆☆
びっくり度: ☆☆☆☆☆
古さ: ☆☆☆
知名度: ☆

 ネムルト山(標高約2100m)の山頂に、直径152m、高さ49mの墳丘がある。コンマゲネ王国の王・アンティオコス1世(紀元前86年ごろ~38年)の墓で、前62年ごろ築かれたそうだ。墓の前には王自身や、神々の像が並んでるが、上半身の壊れ方がえぐい。イスラム教徒に破壊されたという説もあるが、それにしては落っこちた首が、足元に整列してるのが妙ではある(図7)。

f:id:calbalacrab:20181008143703j:plain
図7 座像の首*21

f:id:calbalacrab:20181008151758j:plain図8 墳丘*22

 いつ、誰が造ったかははっきりしてるから、その点で謎の要素はない。この遺跡の面白いとこは、その構造だ。大きな石のブロックではなく、小石を円錐形に積み上げることで、墳丘を築いているのである(図8)。墳丘にトンネル開けようとすると、掘る端から崩れてしまうので、盗掘できない仕組みなのだ。一度墳丘を崩せば復元不可能だから、発掘調査もできてないという。
「重い巨石じゃなくて、小石を使えば逆に盗掘できないんじゃね?」
 というのはなんと言うか、某漫画風に評すれば、ほとんど悪魔的発想だ。この設計思想のユニークさだけで、充分「七不思議」にあたいする。実際、2008年の『「世界の七不思議」ミステリー』(PHP研究所)という本では、「巨石文化の七不思議」にこのネムルト=ダウが入っていた*23

*1:クラスBの顔ぶれは、「①マルタ島の巨石神殿(マルタ共和国)」「②モヘンジョ=ダロ(パキスタン)」「③カッパドキアの地下都市(トルコ)」「④ナン=マドール(ミクロネシア連邦)」「⑤ギョベクリ=テペ(トルコ)」「⑥エル=ミラドールグアテマラ)」「⑦カルナック列石(フランス)」「⑧ネムルト=ダウ(トルコ)」。

*2:科学雑誌『Newton』が2003年に選んだ「世界の七不思議」には、エル=ミラドールが入っている。くわしくは第1回参照。

*3:El Mirador - Wikipedia

*4:https://hyser.com.ua/wp-content/uploads/2017/11/34301299375_42dfc27632_b.jpg

*5:ティカルもマヤの遺跡だが、エル=ミラドールよりずっと新しい。第4神殿が建てられたのは、741年ごろ。参考: Tikal Temple IV - Wikipedia

*6:少なくとも、その高さでは。基壇を含めれば、古代では世界最大の単立建造物じゃないのという説もある(El Mirador - Wikipedia)。でもこれは、さすがに万里の長城の方がでかいだろう。

*7:https://media-cdn.tripadvisor.com/media/photo-s/07/be/16/65/temple-iv.jpg

*8:「びっくり度」は☆5つでもよかったが、未整備で見栄えがいまいちなので、4つにした。

*9:http://lemag.promovacances.com/wp-content/uploads/2013/10/tikal-guatemala.png

*10:フランス語。アルファベットだと、alignement。

*11:Carnac stones - Wikipedia

*12:Carnac stones - WikipediaThe Alignments of Standing Stones

*13:http://classconnection.s3.amazonaws.com/827/flashcards/5959827/jpg/janson_chapter_1-24-14865DD3DD00A944610.jpg

*14:https://ashtronort.files.wordpress.com/2015/09/carnac-stones-2.jpg?w=547&h=410

*15:どうも保存が悪いようで、ちゃんとした写真が見当たらない。

*16:考えてみれば、日本の祭でもたいていは、山車などが練り歩く場面がハイライトだ。

*17:実際はイタリアのチヴィタヴェッキアへ追放されており、カルナックには来たことないだろう。参考: コルネリウス (ローマ教皇) - Wikipedia

*18:ヘルムート=トリブッチ『蜃気楼文明』工作舎 1989年 175ページ。

*19:http://static.panoramio.com/photos/large/24304547.jpg

*20:イアン=ツァイセック『図説ケルト神話物語』原書房 1998年 253ページ。

*21:https://i.pinimg.com/736x/3f/2e/b8/3f2eb8589002a8ac979cbb9f92c14ae9.jpg

*22:https://ameblo.jp/purrrrr/image-11293109144-12059978678.html

*23:その他の顔ぶれは、「モアイ」「クスコ」「ストーンヘンジ」「カルナック」「マルタの巨石神殿群」「グレートジンバブエ」。